第7話

     ***


「無理だ。思い出せそうにないよ」

隣にいる彼女が残念そうに、僕の顔を覗き込んだ。

「なーんだ」

そう言って、ベッドに身を預けてしまった。僕の記憶の乏しさに呆れ返ってしまっているようで、「つまんないの」と余計に付け足した。

「思い出せそうなんだけど、思い出せないんだ」

「思い出すか思い出せないかどちらかしかないじゃない。思い出せそうなんて言うのは、結局思い出せてないんだから。何の意味もないからね」

「ああ、……その通りだ」

ベッドの上で僕は彼女に何の反論もできずに、昔「食べちゃいたい」と言ったあいつの顔をまだ思い出そうとしていることに気付いていた。記憶はすぐそこまで来ているにも関わらず、絶対に思い出すことができないような、とても憂鬱な状態のまま、僕は彼女の横に並んで体をベッドに預けた。

「ねえ、その人は誰が食べちゃいたかったの?」

「ああ、それはよく覚えてるんだ。だから君の言った食べちゃいたいって言葉がとても印象的だったのかもしれない」

「……どういう意味?」

「つまり……」

不意にあいつは僕の頭の中を掻き乱すように、その顔を露にするようになった。

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