第4話

    ***


 ……ああ、確かグラビアページを捲った時だったと思う。

「西条凛可愛いよなー」

隣から、僕の持っていた漫画雑誌のグラビアの表紙を除き込みながら、そいつは言った。

「え、これ?」

僕は僕の腕の中に収められている表紙に水着姿で写るその女の子を指差しながら言った。

「そうだよ。なに、お前西条凛知らないの?」

「西条?」

「西条凛だってば!」

「……知らないな。テレビとか出てんの?」

「ああ、バラエティとか出てるよ。見たことない?」

「うん、テレビはあんまり見ないんだ」

隣にいたあいつの声は僕の記憶の中で確かに響いていた。声だけは鮮明に蘇るのに、あいつの名前や顔がどうしても浮かんでこない。

 ぼんやりと粉の吹き飛んだあいつの顔が、僕の方を向いたまま、そう言ったんだ、たしか。

「食べちゃいたいって思うんだよな」

「は?」

「だから、食べちゃいたいって思うんだよ」

「え……それって、下ネタ……」

あいつは大きく首を横に振った。

「違う!そういう意味じゃなくて、なんていうか、こう、パクっと......」

自分の腕に噛み付いた風を見せたまま、目だけが僕の方に向いているような気がした。

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