第2話
狭いシングルベッドで僕たちは強制的に寄り添うようにしていた。真夏が過ぎ去り体を寄せ合うには頃のいい季節で、何も予定のない土曜日の夜を、何をするでもなく満喫している。彼女は自分の体の上に乗せられていた僕の腕を手に取り、ゆっくりと噛み付いた。
「痛いよ」
彼女の歯が僕の腕の皮膚に少しずつ食い込んでいく。
「痛くないようにするから」
彼女はそう言いつつも、僕はほんのりとした痛みを右腕に感じていた。案の定、彼女が僕の腕から口を離した時、そこにはくっきりとした湿った歯形が、痛みを助長するかのように残っている。
「跡が付いちゃったじゃないか」
「ごめんね」
ごめんね、なんて思ってもいないような言い方の謝罪を受けた後に、彼女は僕に口づけをした。僕はそれを無抵抗に受け入れて、歯形の付いた右腕を彼女の腰に回した。「食べちゃいたい」なんて言った、僕の記憶の中にいる人物は誰だっただろうか。
「ねえ」
唇が混じり合った隙間から僕がそう言うと、彼女はゆっくりと唇を僕から離した。
「何?」
「食べちゃいたいって、どういうことなの?」
「え?」
彼女はそんなことを言う僕をとても不思議そうな目で眺めていた。それこそが当たり前であって、僕の言っていることはそれ程に異端なのだろうか。一瞬不安にもさせる彼女の目が僕を見たまま、ゆっくりと口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます