第2話


 狭いシングルベッドで僕たちは強制的に寄り添うようにしていた。真夏が過ぎ去り体を寄せ合うには頃のいい季節で、何も予定のない土曜日の夜を、何をするでもなく満喫している。彼女は自分の体の上に乗せられていた僕の腕を手に取り、ゆっくりと噛み付いた。

「痛いよ」

彼女の歯が僕の腕の皮膚に少しずつ食い込んでいく。

「痛くないようにするから」

彼女はそう言いつつも、僕はほんのりとした痛みを右腕に感じていた。案の定、彼女が僕の腕から口を離した時、そこにはくっきりとした湿った歯形が、痛みを助長するかのように残っている。

「跡が付いちゃったじゃないか」

「ごめんね」

ごめんね、なんて思ってもいないような言い方の謝罪を受けた後に、彼女は僕に口づけをした。僕はそれを無抵抗に受け入れて、歯形の付いた右腕を彼女の腰に回した。「食べちゃいたい」なんて言った、僕の記憶の中にいる人物は誰だっただろうか。

「ねえ」

唇が混じり合った隙間から僕がそう言うと、彼女はゆっくりと唇を僕から離した。

「何?」

「食べちゃいたいって、どういうことなの?」

「え?」

彼女はそんなことを言う僕をとても不思議そうな目で眺めていた。それこそが当たり前であって、僕の言っていることはそれ程に異端なのだろうか。一瞬不安にもさせる彼女の目が僕を見たまま、ゆっくりと口を開いた。

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