『短編』食べちゃいたいくらい

古びた町の本屋さん

第1話 

「食べちゃいたいくらいに、好き」

……あ、どこかで聞いた事のある言葉だ。僕はそれをどこで聞いたのかを思い出そうとして、隣にいる彼女の顔を見た。

「昔、同じような事を誰かが言っていたような気がする……」

彼女は少し怪訝そうな顔をして、

「元カノの話なんて普通するかな?」

と少し尖った口調で言う。僕は慌てて、空中で手を横に振った。

「違うよ。そういうんじゃない。誰だったか……、男友達が言ってたんだよ」

事実だった。でも誰がそう言っていたのかまだ思い出す事はできていなかったし、何より、僕はその「好き」という気持ちを「食べてしまいたい」という感情に結びつけてしまうことが不思議で仕方なかったのだ。昔、誰かがそう言っていた時も、僕は今と全く同じ不思議さと違和感を抱いていたことを思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る