第18話

夫人は涙ながらに告白した。さくらと分かれてから、夫人は苦労に苦労を重ねた。早くさくらと一緒に暮らしたい一心で昼夜を問わず働いた。その働きを勤め先の重役の知り合いだった資産家の息子に見初められ、結婚するに至った。           そこに、生活が豊かになれば娘を早く迎えられるという気持ちが無かったとは言えなかった。それくらい、彼女は疲れ果てていた。だが、普通の心であれば簡単に想像は付くが、余計に娘がいるとはいい辛くなった。二人の間に子供ができなかった事も一因した。例えばそこで別に本当の娘がいると告白しようものなら財産目当てと、余計に娘も非難される事になるだろう。

 教会で穏やかに暮らしているであろう娘の人生を、自分が一緒に暮らしたいというわがままだけで壊してしまって良いものだろうか。悩んでいるうちに月日が過ぎ、夫人はすっかり怖気づいてしまっていたのだ。修道院のさくらと同じように。

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