第17話

「来る頃だと思ってた。」

二人の顔を見るなり、加奈は堂々と仁王立ちで呟いた。

「じゃあ…」

「うん。わざと。わざとアレを二人にお出ししたんです。」

クッキーのことだろう。

「加奈さん、修道院に居たんですか?」

ヒナが息を整えながら言った。

「っていうか、私、さくらの親友なんです。」

「ええっ?」

「そっちが先。だから、このお屋敷にメイドとして来たの。」

そう言って加奈は桜の樹を見上げた。風が葉を揺らした。何故か二人はそこに桜吹雪を見た気がした。

「桜…さくら…って、あ!」

気付いたのはルナの方だった。先ほどの彰子夫人の意味ありげな物言いを思い出したのだ。

「まさか…でも…」

「どうしたの?ルナ。」

「そう。保証は無いんです。奥様は何も言って下さらない。でも。」

「さっき、立ち聞きしてました?」

「そう、言って欲しくてわざと桜の葉を残したの。」

「でしょうね。あからさまだったから。」

ふふ、と加奈は笑った。

「奥様が、あそこで違う、って言って下さってよかった。」

「言葉の上だけとしてでも、子供が居ない、なんて、言いたくなかったのよね。」

ルナが言った。

「そう、信じたい。」

「さくらさんは、このこと?」

「知ってたら、私達に母親を探して欲しいなんて、依頼しないわ。」

ヒナが言った。確かにそうだ。

「お母さんを見つけて、さくらが怯えてる通りの人だったら却ってさくらを傷つけてしまう。」

「様子を見ていた、ってことね。」

「そう。」

「それで、合格点は出たの。」

「うん。奥様は、離れてもさくらを思ってる。私はそう、感じたわ。」

「そうね。この桜は、さくらさんを思ってのことでしょう?」

「うん。そう、思う。」

そう言った加奈の足元に黒猫が走りよってきた。甘えた声を出して鳴くそれを加奈は抱き上げた。

 刹那、ルナは後ろを振り向いた。そこには彰子婦人が立っていた。

「さ、くら…さくらの居場所を知ってるの?!」

驚きに目を見開いて、唇に触れる指先がわなわなと震えている。

「さくらが、さくらが…私を探しているの?!お願い、答えて!」

そう言うなり、婦人は駆け出そうとして膝を付いた。

「奥様!」

さすがというか、駆け寄ったのは加奈だった。

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