第12話

「とりあえず、詳しい話を聞かせてもらっても?」

「はい。」

三人は場所を応接室に移して話をしていた。さくらが淹れた紅茶を飲みながら、修道院で作ったというクッキーを食べている。

「これ、美味しいっ。」

「それ、すごく好評なんですよ。修道院でひとつひとつ手作りなんです。時々ですが、販売もしていますよ。」

「是非レシピを!」

「企業秘密です。」

「ええ~」

「ヒナさん、修道院にいらっしゃいません?そのとても穏やかな雰囲気、合うと思うんです。」

「そ…っ、それはとても魅力的なお誘いで…」

「…盛り上がってるところ悪いんだけど…」

珍しく他人を怖がらずに話をしているヒナに水を差すようにルナが言った。

「話、聞いてもいい?」

「あ、はい!すみません。私から言い出したのに。」

さくらは恐縮してしまった。

(まぁ、実際似合うと思うけど…シスター…)

ルナはそう心の中で呟いた。普段、思った事は口に出てしまう性格だが、今それを言えばまた話がずれることは必至だった。それが分かっていたので敢えて今は口を噤んでいた。

「母親のことは本当に何も分からないんです。だからさっきお話した事が全てです。」

「ちなみに、どうして修道院に?」

「世を捨てた、とか、人生を儚んだ、とかそういうことではないんです。」

さくらは少し寂しげに笑った。確かに生い立ちを考えればそういう理由で修道院に入ったとしてもおかしくはない。また、そう周りから勘違いされたであろうことも容易に想像できる。

「やはり、マリア様の影響が大きいと思います。

神父様の書斎で見た、美しいマリア様の絵がずっと好きで…」

「マリア様を追いかけて修道院に?」

「それもありますけど、マリア様のように皆の役に立てる懐の深い人間になりたくて。」

「それは…やっぱりお母さんがいなかったことに関係ある?」

ヒナが珍しくつっこんできた。さくらはまた寂しそうに笑った。

「無いとは言えないと思います。」

「そのくらい、会いたい、ってことね。」

「…でも、怖いんです。」

さくらは目の端に涙を滲ませた。

「母には母の、新しい人生があるはずですから、もう私のことなんて要らないのかもしれない。」

「そんな。」

「自分で探して、要らないって言われたらどうしようって思うと、探せなかったんです。」

「それじゃあ、やっぱり修道院にいるのも、お母さんがいなかったことに関係あるんじゃない。」

ルナが言い切った。

「え?」

「普通に社会にでて、人に接する機会が増えれば、それだけどこかでうっかりお母さんにあってしまうかもしれない。」

「…それは…」

「そうして、何かの拍子にバレて、拒否されるのが怖かった。違う?」

「ルナ!」

ヒナが声を荒げた。

「そう、いう…気持ちが無かったわけじゃない、です。」

さくらは詰まりながらもそう言った。

「分かった。探そう。昔住んでた教会の場所は分かるよね。それだけ、教えて?」

「はい。今は違う神父様が来ていると思いますが…」

「構わないわ。それと、この依頼、かなり難しいと思うけど、それは、分かってくれる?」

「はい。ありがとうございます。」

「お茶、ありがとう。美味しかったわ。」

ルナは最後になってやっと笑顔を見せた。

「じゃーさっそく動きますかー」

そう言って立ち上がり、応接室のドアを開けると、そこに。

「にゃー、」

「ミィちゃん!」

ミィは二人の間をすり抜けてさくらの足元へ行くと喉を鳴らして懐き始めた。

「あ、探してるのってこの子、ですか?」

どうやら一つ目の依頼はもうすぐ解決しそうだった。

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