第8話
そこは清楚な雰囲気の教会、否、修道院だった。当然ではあるが決して華美ではなく、だが、洗練された美しさがそこにはあった。庭もたっぷりとあり、木々がさやさやと葉を鳴らしている。
「何か、御用ですか?」
一人のシスターが声を掛けてきた。気付くと足元に居たはずのミィがいない。
「すみません。猫を探しているのです。真っ黒い…」
「あなたの猫ですか?」
そう聞かれてルナは一瞬戸惑った。探偵だと言ってしまえば怪しまれるかもしれない。かといって、自分の猫だといって、ミィを連れてこられても逃げられるに決まっている。それでは却って怪しまれるというものだ。
「すみません、その、知り合いの猫なのですが…本人は探しにこれなくて…ですね…」
ルナの声がだんだん尻すぼみになっていった。と、いうのは声を掛けてきたシスターの後ろにいかにも偉い人、という様相の、恰幅の良い、年配のシスターが現れたのだ。
「分かりました。見つけたらご連絡致しましょう。ご連絡先を。」
ふん、と鼻を鳴らさんばかりの勢いで言われ、ルナは観念しておずおずと名刺を出した。こうなってしまっては出さない方が不自然だろう。それに、眼光鋭い熟練のシスターまで騙せる自信は無かった。
「探偵さん…」
年配のシスターは眼鏡の奥からぎろりと鋭い視線を送って来た。
「はい。小さな探偵事務所を経営しています。」
ルナは腹を括って堂々と答えた。
「では、猫は依頼のもの、ということですね。」
「そうです。言葉を濁して申し訳ありませんでした。」
ルナはきっぱりと言い放った。すると年配のシスターは意外にも笑顔を見せた。
「探偵と名乗れば我々が警戒すると思ってのことでしょう。」
鋭い…と、二人は内心思った。
「分かりました。女性であることですし、過度の警戒は無用でしょう。無論、」
そこで一度言葉を切ると、年配のシスターはもう一度厳しい視線を向けた。
「他の依頼でこちらを調べている、ということは、天に誓ってございませんね?」
何故か近づいても居ないのに、ものすごい勢いで詰め寄られている気持ちになった。二人はシンクロするように同じリズムでぶんぶんと首を縦に振った。
「たたた、探偵業、のみならず、商売ごとは、ししし、信用が、第一です、ので…」
珍しくヒナがどもりながらもそう言った。
「嘘はつかないと。」
「ははは、はいっ」
何故か敬礼して答える。
シスターの目がまたふっと柔らかくなった。
「困っている人には進んで手を差し出さねばなりません。よろしかったら、中を見学されては?」
その言葉をどこまで信じてよいやらと、むしろ思っているのは双子の方だった。
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