第6話

 しかし、その後が大変だった。ミィ、と思しきその猫は、捕まえようとしてもつかまらなかったのだ。捕まえようと手を伸ばしても、忍者のようにひらり、ひらりと身を翻す。困った事に餌にもおもちゃにも興味を示さなかった。

「…ちょっと…どうしようこの子…」

「…でも…逃げるわけでも…ないみたい…」

ルナもヒナも息を上げて動きを止めてしまった。猫はそんな二人を確認するようにじっと見上げると、やれやれ、とでも言うようにその場に座り込んだ。そして堂々と毛づくろいまで始めたのだ。

「この…」

ルナはあからさまに苛立ちを見せて猫に飛び掛った。

「ルナ!」

ヒナが声をあげるのと、猫がルナをかわして飛びのくのと、そして、ルナが顔面から転ぶのがほぼ同時だった。

「大丈夫?」

ヒナはルナを助け起こした。幸い、鼻の頭を少々すりむいたくらいですんだようだ。ヒナがささっと取り出した救急ポーチから消毒液を取り出し、コットンに付けてルナの傷口に付けた。途端にルナが顔をしかめる。

「いった、」

「ちょっとだから我慢して。仮にも女性の顔なんだから、傷が残ったらどうするの?」

こういう時のヒナは何故かいつも強気だ。手際よく手当てを済ませて絆創膏を貼る。何だかルナは小さな子供のように見えて笑った。

「あー、もう、ひどいなぁ。」

そういうルナも笑っている。そうして、そこで初めて二人は猫の存在を思い出した。

 慌てて振り向くと、猫はそこでちょこんと座っていた。何かを見極めようとするようにじっと二人を見ている。ゆらゆらと尻尾を揺らしながら。

「ごめん。」

先に謝ったのはルナの方だった。

「そりゃ、最初から捕まえに行ったら誰だってびっくりするよね。」

「私達が悪かったわ。」

ヒナも続いて頭を下げた。

「まず最初に確認させてほしいんだけどさ。」

我ながら何となく馬鹿のようだとも思いながらルナは続けた。

「君は…彰子夫人のとこのミィ、なの?」

ルナの問いに猫は、金色の瞳をくるくると回して、にゃーと鳴いた。

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