第3話

それから丸三日、二人はミィの写真を片手に聞き込みをした。だが、手がかりは無かった。黒猫を見たような気がする、という人間は何人かいたものの、どこで、とか、尻尾の先が白かったか、というような細かい情報になると覚えてなど居ない。注意してみないとなかなか覚えてなどいないものだ。黒猫など世の中にたくさんいるのだから。

 二人が聞いて回った中には以前、依頼を請け負って、顔見知りになった人もいた。そういう人は快く協力を申し出てくれた。心当たりを回ってくれたり、自分でも注意して猫を見てくれた。

「ありがたい話よねぇ。」

川原の土手に腰掛けて、昼食のサンドイッチを頬張りながらルナが言った。狭いところにも入り込むため、二人ともツナギにスニーカーという出で立ちだった。ポケットからは汚れた軍手も覗いている。ルナはいつもな下ろしているウェーブのかかった茶髪を高く結っていた。

「こうやって、皆に助けてもらいながら、やっていけたら、いいよね。」

「ん。間接的だけど、誰かのために誰かが動いてる。」

「そんな輪が、広がったら、いいよね。」

ヒナも珍しく眼鏡の奥の目を輝かせていた。

 ヒナはいつも、どんな仕事でも嫌がらない。ゴミ屋敷の掃除でも、今回のように草むらを掻き分けるようにして何かを探す、という仕事でも。

 子守を頼まれた時、眼鏡をおもちゃにされて曲げられた時も笑っていた。そんなヒナをルナは尊敬していた。

 今日のお昼のサンドイッチも実はルナの作である。正直、美味なのだ。そして、優しい味がする。ルナのように。

「ねぇ、ヒナ、このサンドイッチ…」

ルナがレシピのコツを教わろうとヒナに声をかけると、ヒナは真っ直ぐに何かを見ていた。ただ事じゃないという顔をしている。その目線の先を追うと、川原の草むらから何かが飛び出した。しばらく見ているとまた飛び出す。どうやらそれは草原を飛ぶ蝶を追っているようだった。

「黒…猫…」

 そう。

 それは真っ黒い猫だった。二人は何の合図もなしに同時に飛び出した。

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