第2話
「ねぇ、彼女、どこかおかしくなかった?」
ルナがヒナに言った。ヒナは夫人に出したお茶を片付けていた。その手を止めて、一瞬きょとんとしてその後、考えを巡らせるように虚空を見た。目線がぐるりと一周して、やっと口を開いた。
「そうかなぁ。私には分からなかったけど…ルナのそういう勘は当たるから何かあるかもね。」
そう言って、来客用のカップを片付け、今度は自分達のマグカップとティーセット、お手製のマフィンを持ってきた。
依頼人がひと段落すれば、こうして二人でお茶を飲む。仕事を放棄している訳ではない。ティータイムは彼女達にとって貴重な意見交換の時間であり、推理の時間でもあった。
「依頼以外の何か…裏の事情?そういうのがある気がする。」
ルナはカップを持ったままで考え始めた。ヒナはと言えば、知らない人が居なくなってほっとしたという空気を全開にしてマフィンを食べている。その様子を、ルナは見ているようで見ていない。
だが、ルナは知っている。にこやかに食べているようでヒナの目もどこかを見ている。二人の間の会話は止まってはいるが、思考はかなり動いていた。
「とりあえず。」
先に口を開いたのはヒナだった。眼鏡をくい、と指で直して机に並べられたメモを見る。
それは依頼人の話を聞きながらヒナがまとめたものだ。
迷い猫、ミィの行動範囲と思われる場所。それは彰子婦人が把握しているもの、そして彰子夫人宅のメイド、加奈の証言、更にヒナの雑学から大体の猫の行動範囲を割り出したものの複合結果だ。
そしてミィの写真。特に特徴の無い、黒猫なのだが。首輪もしておらず、模様も無いとなるとなかなかに難しい。唯一の特徴と言えば尻尾の先が僅かに白いというだけだ。
「…猫探しっていうのは定番の依頼ではあるけど、なかなか難しいのよね …」
「首輪とかしていればいいんだけど、本猫って保証がどこにもないしね…」
「雑種だと余計やっかいなのよ…」
見つけた事は見つけたがちゃっかり他所の家の猫になっているというパターンもないではない。そもそもそのパターンでは見つかった保証すらない。居なくなった時期とその猫がその家を訪れた時期で推測するしかない。
「誘拐、の線は薄いかな。」
価値ある猫、例えばオスの三毛猫などであれば、転売目的で誘拐される線もないではない。だが、当のミィはただの雑種の黒猫だ。
彰子夫人の資産を考えれば、行方不明になったのが子供であればまず誘拐を疑われることだろう。だが、その猫がそもそも夫人の飼い猫であるという保証もない。猫を子供の代わりに誘拐するのは無理がある。
「子供のように、可愛がってはいるみたいだけどね。」
「まあね。」
ルナの脳裏に涙ぐんでいた彰子夫人の様子が浮かんだ。飼い猫が居なくなった飼い主としては無いでもない様子ではあるが、どこか引っかかる。
「…初動、よね。」
ルナがため息を付いた。
「早く動くに越した事は無いわね。」
ヒナはなんだか嬉しそうだった。そう決めると二人はせかせかと目の前のスイーツとお茶を片付け始めた。
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