第22話 誰?

昼食後、仁はインターネットで何気なく検索をかけていた

斎藤 クローン

齋藤 教授

齋藤 講習会

等、関連がありそうな検索ワードを掛けてみるが、ありふれた名前である為か有力な手掛かりを見つけることはできなかった

どういう人物なのだろうか?クローンに関係するのは間違いないだろうが、山井からのか細い情報だけでは仁にはどうしようもなかった


そこで、リビングにいた妻に話を聞いてみる

「なぁ、智恵子。斎藤って名前わかる?クローンの技術者だか教授だかの名前らしいんだけど」

その言葉を聞くと、智恵子はどうして不思議そうな顔をこちらに向けた

「知ってるわよ、仁さんが休みの日に講習会に行ってた人の名前でしょ、どうして?」

ビンゴだ

「山井から名前が出てね、なんとなくだけどどんな人だか知りたくて」

「私もそんなに詳しくはないわよ、確かどこかのクローン施設の研究員をやってるひとじゃなかったかしら?そう言う人の講習会に行くって話を聞いたくらいで」

「そうか、そう言うのにわざわざ行ってたんだな」

「もしかしたら、資料とかあるんじゃないどっかに取ってあるかも…」

「ちょっと調べてみるか、前の俺の書類とか」

そう言って、リビングを離れようとする


すると、それを遮るように智恵子が睨みつける

「辞めたら…?」

「え?」

「そう言う風に、前の仁さんが何をしていたとか探すのを辞めたら?」

今度は目線を逸らせる

「それを知ってどうするの?斎藤って人がどういう人か?前の仁さんが何をしようとしていたのかとか、知ろうとしてどうするの?」

怒気と、哀しみが籠ったように言う

「何言ってんだよ、少しでも何か知りたいって気持ちはわかるだろ?俺自身の事なんだ、知らなきゃいけない事だってある」

「市役所に提出する様な内容の事はほとんど調べたんでしょ?それ以上を探す事になにか意味があるの?って私は言いたいの」

今度は苛立っているようだ

「智恵子は、それを調べたりするのに反対なのか?」

「そう…ね、はっきり言ってしまえば反対だわ。あなたが、前の自分の事ばかり気にして今を見えて居なくなりそうなのが嫌」

それにと呟き、

「あなたが前の仁さんって言うとね私、あなたが小久保仁で無いみたいに思えるの!別の人が自分の前に居るんじゃないかって、そう思えてくるの!」

智恵子は肩を震わせながら、口を結び目からは大粒の涙が零れていた


「そうか…悪かった」

智恵子の両腕をつかみ、仁は真っすぐ話す

「意味…か…」

仁は大きく一息つく

「意味は…無いのかもしれないし、有るのかもしれない」

「どういう事?」

「斎藤って人が、どういう人かわからなくても良いかもしれないし、知らなくてもいいのかもしれない、だけど知っておきたい、小久保仁が何をして何を思って死んでしまったのか」

「あなたの自己満足の為?」

「それもある…だけどもう一つ理由もある、前の俺のためだ」

「何よ、それ?」

「親父が言ってた」

「お義父さんが?どうして」

「話したんだ、ついこの間。あいつは死んじまったって、あいつを忘れたらあいつが浮かばれないって」

リビングに普段気にもならないエアコンの音が響く

「そう…」

「知らなきゃいけないことが有る、それが何かはわからない。だから調べなきゃいけないし、わからなきゃいけない」


「やっぱり、そっくりなのかもねお義父さんとあなた」

スンと鼻をすすり涙を拭き智恵子はそう言った

「どういうことだよ?」

「お義母さんが言ってた、お義父さんは何かを言いだしたら嫁の気持なんか考えずに物事をしだすって」

今度はふぅ、とため息を一つ漏らす

「良いわよ、好きにしたらいいわ気の済むまで。今度お義母さんにあなたの悪口たっぷり言ってやるから」

「そうしてくれ、なにもかも親父が悪い遺伝なんだ」

そう言いながら、ポケットのハンカチを智恵子に手渡す

「お義父さんの性にするなんて最低ね、全く性質の悪い人と結婚したもんだわ」

そう言いながら、涙を拭う

「ああ、最低の夫だ。すまないな」

「大丈夫よ謝らなくて、私の見る目が無かっただけだわ」

「そうか、でも俺には見る目があったみたいだよ」

そう言って、智恵子を抱きしめた

仁の服に涙の跡が付いた


「やっぱり、あなた小久保仁だわ」


そう、智恵子が言った

それは、自分が小久保仁であると言う意味だった

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