第20話 聡の秘密
別に大したことじゃない、だけど兄ちゃんにとっては大層な事だったようだ
と言えるほど俺も腐ってはいない
気持ちはわかるさ
だから、兄ちゃんがあの時。おっかない顔してやって来た時は俺の仕事場に来た時は、慌てもしたけど、来る時が来たって思ったさ
誰だって、自分の女房が弟とそれなりの事をしたっていうならキレるだろう
一応釈明させてくれ
あれは、まだ兄ちゃんと智恵子ちゃんが結婚するなんて話すらない時だった
付き合ってると言うよりは、仲のいい同僚で趣味も一緒だったっていうだけの頃さ
5年位前かな?
「シルバーリップのコンサートが有るんだが、行かないか?」
と兄ちゃんから話が有った
10代のころから兄弟で好きだったバンドだけど、今じゃ全く聞かなくなってたし、昔の歌くらいしか知らない
智恵子ちゃんと他の会社の同僚で3人で行く予定だったが、兄ちゃんは急な仕事の予定が入るので行けなくなったそんな話だった
せっかくチケット取ったのに、無駄にするのももったいないから、俺の都合が合うなら行かないか?と誘われただけさ
最初は知り合いでもない人たちと行くってのも気が引けたし、そんな乗り気じゃなかったが、結局家で暇をしていてもしょうがないって事で行くことにした
当日は兄ちゃんが行こうと思ってた同僚の男…なんて言ったかな?竹さんとかなんとか、よく覚えていないが、熱心なファンでその人と智恵子ちゃん3人でライブ会場に行った
お互い知らない仲だったが、共通の趣味があるってのは楽なもんで
ライブが始まる前にはすっかり打ち解けた仲になっていた
乗りのいいアップテンポな曲が多いし、俺も昔の好きだった曲はわかり男二人は大いに盛り上がったし、智恵子ちゃんも楽しそうだった
竹さんとはそれ以来付き合いは無いが、その日は仲良くさせてもらってシルバーリップの事を色々説明してくれたりした
ライブは3人とも満足して終わり、俺も今日は来てよかったなと思った
終わったのは8時位だったかな?
飯でも3人で食いに行くか?と2人に提案したが、竹さんはなにやら用事があるだったか、仕事があるだったか忘れたが別れることになった
じゃあ、解散するかなと思ったが
智恵子ちゃんが、行ってみたい店があるから良かったら行ってみないか?
と、いい返事が貰えた
別に、その時は兄ちゃんの彼女になるなんて全く思ってなかったし
後ろめたいなんて気持ちは微塵もなかった
ホントさ
ただ、可愛い女の子の誘いを男なら誰でも断るなんてできないだろ
だから、俺も当然そうしたまでさ
普段俺なんかがいかないような、こじゃれた店で、なんだったか良くわからない横文字の肉料理が有名なんだとか
車いじりが好きなだけの俺からしたら、美味いって事位しかわからなかったが、それを言うと智恵子ちゃんは、普通にあっけらかんと笑って
「私も、よくわからないけどそう思う。来たっていう話つくりの為でもあるから、それが判っただけよかったよね」
と、満面の笑みだった
あの笑顔は反則だな、と今でも思う
店では酒も出て、美味かった。美味かったからと言っても飲みすぎたのかもしれない
二人でワインを二本空にするまで飲んで、その日のライブの事なんかを語ってた
その後、別に不思議な事じゃないだろ
気の合った男女が、酒も入って夜の街さ
ネオン街を歩いていれば、モーテルの一つや二つは有る
そこへエスコートしたまでの話さ
でも、それ以降は神に誓ってなにもしていない
特に理由も無いが、智恵子ちゃんと付き合ってどうこうしようって考えは起こらなかったし、向こうもそれっきりだった
もっとも、神様を信じていない俺が言っても誰も納得しないだろうが
その後兄ちゃんと智恵子ちゃんが付き合い始めた、そんな話を聞いても
そう話を聞いた時は、すこしびっくりしたが、それ以上は無かったし。お互い秘密にしていればバレないだろうとタカをくくっていた
で、2月前の8月
兄ちゃんが、仕事場の工場にやってきた
どうやって知ったのか、その時の話を出してきた
ガキのころじゃれるように喧嘩してた頃とは訳が違う、完全にキレている表情だった
流石に俺も、まいったさ
今は仕事中だから話はまた後にしてくれないか?って言うと
結構大人しく、引き下がってくれた
一緒に働いてる、班長にもどうしたんだ?って聞かれたが
簡単に答えられる話じゃないんで
ちょっとした揉め事位に言っただけだ
その後、兄ちゃん…前の兄ちゃんな
話はしたよ、今言った通りの事をただ繰り返しただけさ
俺の方は、割と平然としていたのが気に入らなかったのかもしれないが、
それ程、気にすることか?
口には出さなかったがそんな風に思っていた
兄ちゃんは一通り、俺に物を言った後
智恵子ちゃんとは、もう会うな
正君にも近寄るな
そんな事を言ってきた
兄弟としての付き合いも辞めるとかも言ってたかな?
俺も俺で、そうかそうか好きにしてくれって態度になっちまったからな
やり取りがめんどくさくなってたのも有るが
時間が経たないと、解決しない問題だろって思った
そんなことが有ってから数週間
仁兄ちゃんが救急車で運ばれたって話がお袋から夜中に、電話でかかってきたかなりやばい状態だと
病院で智恵子ちゃんと会ったが、そんな事を言ってる場合じゃなかったし
俺も俺で、信じられない状態だった
だが、その日の内にクローン生成の意思表明のカードが財布から出てきたとかで、その登録の日付が、智恵子ちゃんとの関係を知られる前だったといわかった
俺は思ったね、兄ちゃんには悪いけど
ちょっと楽になったってね
今度はバレなければいい
だから、今度の兄ちゃんとは上手くやっていけるよ
なぁ?そうだろ
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