第12話 会合

人ごみの中自分の父を見つけた仁は、父を追うように駆け足でその方向へ向かった

久しぶりだね

今日はどうしたの?

どこへ行くの?

追いついてそう声を掛けようか

仁は思ったが父の20メートルほど後ろで駆け足が止まる

仁の脳裏に、生成されたあの日の父の眼が蘇る

醜いものを見る眼

有ってはならないものを見る眼

それを思うとそれ以上足を進めることも出来ず

かと言って、踵を返す事も出来ず

仁は素人探偵のように父の後をつけた


駅から5分ほど歩いた父はその街の公民館に着いた

そのまま父は公民館の中に入っていく

仁は、後を追って中に入ろうかどうしようかと迷いながら公民館の入り口に貼ってある、その日の催し物が書いてある掲示板を見る

・自然と共存する遊び方

・名曲で学ぶクラシック

・クローン誕生について考える会

掲示板の一番下にある文字に仁は驚き釘付けになる

親父はこれに出るつもりなのか?

おそらくそうだろう、時間的にも他の催し物はややずれている

…とにかく、行ってみよう

父が何を思って、この会合に出席するのかにも興味があったし、そうでなくても自分もこの会合には興味があった。父がその場所にいなくても良い

そう思い、公民館の中へと仁も入る

参加は事前に申し込みが必要なようであったが、受付の職員に頼み込むと、空席があるので良いと返事を貰えた。

そうしてから会場となっている部屋に入って待とうかとしたが万が一父と鉢合わせてはバツが悪い。そう思って、トイレへと隠れるように逃げ込み、会が始まるまでの時間をそこで潰した

会が始まる少し前、仁は会場をそっと覗く。詰めれば100人は入れるであろうか会場はほぼ満席となっており、隠れるように会場に入り一番後ろの席に着きキョロキョロと父の姿を探した

居た

ほどなくして自分の席から5列前の席に、自分の父の姿を仁は発見した

後ろ姿からで顔はわからないが、確かに父だ

隠れるような行動に後ろめたさを感じたが、仁はそのことに安堵した


そうこうしていると、会合が始まる

司会進行だという男が壇上に上がる

「えー、皆さまこんにちわ。本日は当会合にお集まりいただきありがとうございます。司会進行の田崎です。さっそくですが、今日の会合の進行について説明させていただきます。これから何名かの方に壇上に上がっていただき、クローン生成についてどう考えているかを発言していただきます。賛成反対の意見様々な方をこちらで、選ばせていただきました。それらの意見を聞いたうえで、皆さまがどう考えるか、また今後如何していくべきなのかを考える一つの判断材料として考えていただければ結構です。それぞれの方の発言が終わった後、その方へ対しての質問等も受け付けますので発言の途中で何か思った事がある方はその時にお願いします。」

そう言ってから、会合中の諸注意や休憩時間などについて説明を行った

そうしてから会合が始まった


最初に壇上に上がったのは40代前半に見えるスーツ姿の男性だった

製薬会社に勤めているというその男の、話はクローン技術に関しての話で、クローン技術が確立してからの技術進歩の話、現在のクローン技術は決して問題のあるものではない、技術体系が完成させるためにはもっと多くの人がその現状を知ってもらいたいと言う趣旨の物だった

話が終わり数名の質問者が手を上げ、それを司会の田崎が指しマイクが手元に運ばれる。一通りの質疑応答が終わると、スーツ姿の男はパチパチと拍手受けて壇上を降りる

そういった流れで何人かの発言者が壇上に上がって話をしては、降りていく。概ね会場の雰囲気自体は落ち着いたもので、父も落ち着いた様子でその光景を見ているよう

だった

その後数名の発言者が壇上に交互に上がる

何度でも蘇るゾンビ見たいなものだ!と叫ぶ50代の男

命は神によって作られるもので、人の手によって行われてはならないと語る宗教家の男

動物にも適用し、クローン生成を可能にしてほしいペットも家族の一員だと語った女性

リスクを回避すると言う意味で自分への、また周りへの保険だと語るビジネスマン

低所得者には厳しい現状をどうにかしてほしいと語るフリーターの若者

未だに違憲状態であると語る身なりの良い初老の男性

賛成反対の様々な意見が、飛び交い

一人15分無いし20分程度の話と質疑応答をして各人の主張が続く

そうして開場してから2時間ほどが経ち一人の男性が壇上に上がった

30代半ばに見える、少し疲れたような顔立ち、兄と同じくらいの年代であろうが貫禄のあるようにも見えた、服装は平服であるがしわがなく清潔感がある

そして足が不自由なのか右手には杖を突いていた

壇上に上がろうとする男に、職員が椅子に座ってお話くださって結構ですよと、スチールパイプの椅子を渡そうとする

いえ、結構ですこのまま立って話します

と男は手を胸の高さまで上げ丁寧に断り、マイクのスイッチを入れ話し始めた

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