第6話 いつもの生活を
クローン誕生に関する制限等を規定する法
6条 死亡した人間が殺害または重過失致死によって、生命を奪われた場合。加害者は刑罰を免れることはない
7条 利害関係を持つものが不法行為によって死亡させクローン生成によって利益を得た場合。これを取り消すことができる
8条 適法にクローン生成がなされない場合であっても、これを処分することは出来ない
9条 生成されたクローンに瑕疵が認められた場合、生成者はこれによって生じた損害を賠償する責任を負う
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仁は自分の死亡状況に疑問を持っていた
聞いた話によると前の仁が死亡していた場所は、自宅から最寄りの駅に向かう通勤に利用する道からは少し離れた並木道で、普段はめったに通らないような場所である。なぜそのような場所で、座り込んでいたという状態で死亡していたのかが、引っかかってはいた。
だが、前の自分がどの様に死亡したのかは些細なことでもある気がしたし、すでに警察による調査と司法解剖の結果も出たのであるのだから、今から自分が何を調べようと分かるはずも無いと思いもした。
妻から警察でこの死亡事件を担当した鹿島という刑事の名前と、警察署の連絡先を聞いたが、特に今は必要もないと感じた。
それよりも今は、まず会社に顔を出しておこうと会社に自宅の電話から連絡を入れようとする。
そう言えば…とまた思う、携帯電話が無い
警察は死亡したときに、本人が持っていたものを家族に渡しているのだが、財布や鍵、通勤カバンの類は持っていたが携帯電話は無かった様だ。それらは自分が使っていたものではあるが、なぜだろうとまた疑問がよぎる。
携帯電話ショップにも行かなくてはなと、思いながらもまずは会社へ連絡をすることにした。
会社に連絡を入れると、始業前ではあったが、同じ部署で直属の上司である沢入という男が出てきた、
「調子はどうなんだい?」と落ち着いた声だ
一通りのあいさつを終えると、昼休みの頃にでも訪ねてきてくれればいいと返事を貰った。
小久保仁の勤めている山海保険は、業界内で売上高はトップ5に入るような大手の会社である。そこで仁は主に自動車保険や火災保険といった保険の販売と営業をしていた。仕事内容は法人個人を問わずに、保険プランやその内容説明、新しい商品の提案などである。会社には入社してから5年の月日が流れ、部署の中でも中堅の若手社員と言った立場だ。仕事は基本的には一人で一企業なり一個人を行うが、大きな仕事の場合は数人でチームを組むこともある。
かつては妻の智恵子も在籍していたが、結婚と妊娠を機にそのまま退社をした。彼女は事務の仕事をしており別の部署ではあったが、社内恋愛の末に結婚をした。幼さ残る顔立ちで、やや痩せ気味、彼女は決して美人と呼ばれるタイプではなかったが、気立ての良さに仁は惚れた。2年間の交際を経て、仁からプロポーズをし二人は結婚をした。
仁にとってはその会社につい一週間ほど前までは働いていたはずだが、今日は全く違う立場で行く。職場の人達にとっては3週間前に死亡したはずの、男がやってくる。正しくは彼のクローンがやってくるのだ。
なんとも奇妙な気分だな、とクローン生成施設で家族に会った時の気持ちで出かける準備をする。
紺色のスーツを着て、群青色ネクタイをつけ、トイレの洗面台の鏡の前で何時ものように髪を整え、自分の顔を見ながら、よしと一声顔を軽く叩く。香水を一振りし身支度を終えると、会社の昼休みにはまだかなり早いが出かけることにした。
コートを羽織り出かける用意を終えた仁に智恵子が見送りに玄関まで来て靴ベラを仁に渡す
「行ってらっしゃい、今日は直ぐに会社に行くの?」
「会社にも行くけど、その前に携帯ショップに行くつもりだ」
約束の時間までまだ余裕はあるしまずは、それが先決だ
「そう、電話どこに行ったのかしらね?」
智恵子も同じ疑問があったようだ、首をかしげる
「どうしたんだろうな、どこにもなかったんだろ?まず携帯契約したら、一回智恵子にも連絡するよ、バックアップもあるはずだしな」
「お願いね、今日はいつ頃帰れそうなの?遅くなるの?」
「ちょっとわからないかな、復帰しても良いというなら、今日からでもまた働いても良いし。もし、駄目なら直ぐに帰ることになるしな…」
今日の予定について話す、会社からの許しが出るなら給料が出なくても今日は働いても良いと思っていた。2ケ月の間に何があったのか、どういう仕事をしていたのかを知らなくてはならない
「どうなるかはまだわからないの?3週間休暇時期があったとか、病気で入院してたみたいな扱いにはならないのかしら?」
「全く違うパターンだからな…会社でもどうするか迷ってるんだろう、果たして今の俺を使ってくれるのかとな」
「そうね…どうなるかしら」
「また、わかったら連絡するよ、まずは会社に行ってみる」
妻と子供に見送られ仁は家を後にする、
会社へ向かう途中最寄りの駅前の携帯電話ショップで、携帯電話を購入する。何か問題があるかとも思ったが、すんなりと購入をすることが出来同じ電話番号、メールアドレスを取得することができた。
前の携帯電話は4年ほど使っていたものであったから、買い替えて良かったと思いながら、つい3ケ月ほど前に出たという、新商品の携帯電話を手に入れた。クラウド上にはバックアップがとってあり、それをそのまま、今購入した携帯電話に連絡先等のデータを入れる。
それらを終えてから、智恵子に連絡をし、少し肌寒い冬の街中を仁は会社へと向かった
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