第5話:息子の右手
三人は昼食を済ませた後、さっそく申請書類記入に関しての話を始めた
午後3時12分の事である
正をお昼寝させ、仁と智恵子と翔の三人は
記入用紙を前に最初に口を開いたのは仁であった
「色々話す前に、一つ聞いておきたいことがあるんだ。」
なんだ?と兄が相槌を打つ、そこで仁は抱えていた疑問をぶつける
「前の俺の死亡原因についてだ、気にはなっていたんだが中々話を切り出しづらくてな。どういう状況で死んだのか?事故か?病気か?」
実際には病死の場合は自然死として扱われ、クローンの生成は認められていないが仁はそれを承知の上で聞いた
兄と嫁が目を合わせる、どっちが話すか?と目配せをし翔が話し始める
「俺が話そうか?と言っても、又聞きの話にの部分もあるから。実際の詳しい状況まではわからない、それでもいいか?」
「構わないよ、智恵子もそんな感じか?」
「ええ、そうね。警察の方から状況は聞かされたけど。家族のみんなそれ程詳しい状況は分かってないわ、担当してくれた警官の方の名前ならわかるけど、鹿島さんって言う方。連絡先も判るけど…」
「まずは、俺たちが知っている内容だけでも話しておきましょうか。それ以上必要なら鹿島さんにも連絡をしよう」
と翔は智恵子に言う
「なんで言葉を濁すような言い方をするかっていうとな、先に結論だけ言ってしまうとな、よくわからないって事だ」
「よくわからない?どういう事さ?」
仁は不思議そうに問う
「順を追って話そうか、まず俺に連絡が来たのは3週間前の9月25日だ。お袋から夜に電話があった。仁が病院に運ばれたってな、急いできてくれと。病院に行ってみると、親父とお袋と智恵子さんそれに聡もいた。道端で座ってるところを通りかかった人に発見されて救急車で運ばれたってことだ」
「座っていた?」
「ああ、人通りの少ない道で俯くように下を向きながら座っていたそうだ。酔っ払いが動けなくなってる位にしか見られなかったんだろう、多くの人は横を通り過ぎてっただけみたいだ。そんな中、一人の婆さんが大丈夫かって声を掛けてくれたそうだ。だが返事がない、呼吸もしていないんで慌てて、救急車が呼ばれた」
一呼吸兄は置く
「救急車で搬送されたときは、すでに呼吸もなく心肺停止状態だったようだ。病院に運ばれる前にはおそらく死亡していたんだろう。俺たちが病院に着いた時にはもう、すっかり」
「そうか…」
「顔を確認したら間違いないんでな。それから警察が来たりして、色々話した。その中でクローン生成に関する希望カードを前のお前は財布の中に入れていたのが発見されたと言っていた。だが、クローン生成に関しては様々な制限がかかっているのもお前は知っているだろ。まずは、警察で死亡原因を究明してそれが分かってからじゃないと許可が下りない、そう言っていた」
なるほどと仁は頷く
「で結果は死因不明って事になった」
「死因不明?」
「ああ、要するによくわからないが死んでしまったってことだ、突然死とかそういう分類に入るらしいな。殴られた様な外傷後も、苦しんでもがいた様子もない、原因が特定できないって事らしい」
「なんだそれ…急に心臓停止したとかそういう話かよ?」
「それも含めて不明らしい、だから最初に言った通りよくわからないって状況なんだ。知ってると思うが病死扱いだとクローン生成は認められていない、だが今回は突然死なんで許可が降りたんだ」
「皆心配して大変だったのよ、どういう結果が出るかそれによって、生成できるか出来ないかなんて話で悩んで」
智恵子が横から口を挟む
「なるほどな…もしかしたら俺の体も、そういう危険があるのか?突然心臓停止したりするとか」
と仁は心配そうに二人の顔を見る
「どうだろうな?実際素人の俺らには皆目見当がつかん、一度病院で精密検査を受けた方がいいのかもしれんな、心臓になにか異変があるとか今のうちに調べておいた方がいいかもしれない」
「そうだな、そうするか…また同じ目に合うかもしれないし」
仁は自分の体に何か爆弾のようなものが仕掛けられている気分になった
同時に、なにか違和感を覚えた。口にはできないがモヤモヤとした感情が自分の中に渦巻くのを感じた
「とりあえず、そんな感じだ書類に書く分には突然死と言う事と、今言った状況を、書き込めば十分だ」
そうか、仁は頷き一応は納得をした
気にはなったが、それ以上は翔も智恵子も何もわからないので死因についての話は聞けなかった
そして、その後は書類の他の記入欄に関する内容を智恵子と翔に聞きはじめた
1時間ほど経つと、あらかた聞きたいことも終わり翔は帰る事となった
正も起き家族三人で翔を玄関にて見送る
「今日はありがとう、兄貴。色々助かったよ」
「なんてことはないさ、またな。智恵子さんお邪魔しました。正バイバイ」
智恵子に声を掛け、息子に手を振る翔
「ありがとうございましたお義兄さん、またお世話になるかもしれませんがよろしくお願いします」
智恵子が一礼すると、バイバイと正も手を振る
「おじちゃんまたきてねー」
「ああ、今度はおじちゃんの家にも遊びに来いよ、待ってるからな」
そう言ってパタンとドアを閉め翔は家を出ていく
そうしてから、隣にいる智恵子と正を見つめ、二人の手を握った
「パパどうしたの?おててつめたい」
正が父に言う
「ああ、あったかいな正の手は」
釈然としない、得体のしれない思いが仁の胸の中を渦巻くのを感じる
調べなければならないと思うことが増えた。
と思うと同時にこの手を守らなければ…という父親の責務も感じた
握った息子の手は仁をそう思わせる暖かさだった
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