第93話 ミカゲの舎弟は育三ちゃん

「よしっ、こんなもんだろ。育三――! そっち終わったら、あとは中だぞ」


 じーわじーわ、とセミの鳴き声が本格的になってきた。

 折ノ下鍾乳洞の入り口は山の中腹にあるので、村の集落があるところよりは涼しいけど、それでも汗がじわりと出てくる。



 テキパキとミカゲは作業員に指示をし、看板を立てていく。ミカゲと俺、育三ちゃんは鍾乳洞の外側で看板を立てる位置に看板をあらかた置いて、残りの作業員の人たちはそれを立てていく感じの作業である。

 枚数がかなり多く、鍾乳洞の外側の看板設置が午前の休憩時間の10時ぐらいまでかかってしまった。


「よっし、俺らは一足先に中に入ろうぜ」

「あ――!! 涼しいです」


 育三ちゃんは、ミカゲの舎弟のようについて回っている。わりといいコンビで仕事をしているようで、ミカゲがなにかを欲しいと思う前に育三ちゃんが道具を準備したりと、努力しているようだ。

 そんな3人で鍾乳洞の中に入る。


 ……鍾乳洞の中は3ヶ月前と、なにも変わっていなかった。



「まあ、和哉、元気出しとけよ」

「そうだね、落ち込んでてもダメだろうね」


 ミカゲが静かになった俺の気持ちを読んで、励ましをくれるが俺は落ち込んだ気分のままだった。そんなしょぼくれた俺の背中を、ミカゲが結構な力で叩いてくる。


「いてーよ、ミカゲ」

「ハハッ、元気を注入してやったんだよ」

「僕も叩きますか? ヘヘッ」


 いや育三ちゃんに叩かれたら、レベル300の勇者パンチを遠慮なしにお見舞いするよ? きっと鼻血だけじゃすまないよ?



 奥の大広間へ行く。以前はシアンの妹が寝ていた姿が見れたのだが、魔王を倒したあとにミカゲが確認しに来たら、いなくなっていたそうだ。たぶん、魔王の魔力がなくなったことで、龍族も姿を隠したんだろう。

 俺たちの知るパワースポットでも、普段から龍とか見えないもんな。


 俺は以前、シアンの寝床であり、龍族トレーニングの際に移動した場所に立った。もう3ヶ月も経つんだし、シアンと会いたいけどもう会えないんだ、と気持ちを切り替えなければいけない、と思っての行動だった。



 その場所に俺が立ったときにボウっとシアンの寝床だった窪みがうすい金色に光った。それに気づいた瞬間、俺は龍脈の中にいた。

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