第92話 アイディアル・オンライン
田舎ファンタジアをクリアしてから、3ヶ月が経った。
魔王はというと、なぜか俺んちでミーシャと仲良くやっている。
『このメスは、我に気があるようだ』
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ミーシャは魔王に寄り添っている。そんなミーシャを魔王もまんざらじゃなく、受け入れている。
あ、ちなみに魔王はオスね。
「また猫なんてひろってきて!」
と母さんは最初に口では言っていたが、ミーシャ一匹だけだと退屈そうだったのも見ていたらしく、俺が魔王を飼うことにはそんなに反対しなかった。
「まおーちゃんは賢いねぇ」
と母さんがテレビを見ているときに、なでなでしながら可愛がっていた。どうやら魔王が膝の上に乗ってくるのがわりとお気に入りらしい。
そして父さんは単身赴任をしながら、『新しく始まったネットゲーム、アイディアル・オンラインというゲームのスタートダッシュが大事なんだ!!』とメールで連絡をもらった。
……いやあのさ、歳を考えてよ。それに仕事をちゃんとしろよ。
梅雨が終わって夏もさなかになり、気温が上がってきた。田舎村は盆地なので、冬は寒くて夏は暑くなるという、厄介な土地である。だから俺は朝、かなり早くに出勤すると決めていた。
だって涼しいときにチャリを漕いだほうが、汗がかきづらいからね。
「ああよかった、鈴成くんさ、ドラゴンソードのイベントがある鍾乳洞の整備に、急いでミカゲくんと行ってきてくれないかな? 外国人観光客用の表示板が今日来たんだけど、それを設置する手が足りなくてね。あさってには団体で外国人の方が多数くる予定になっているから、今日中にミカゲくんの会社の人と一緒に設置を頼むよ」
珍しく俺より早い出勤だった大和田さん……いや、大和田課長から折ノ下鍾乳洞の奥の経路案内の多国語看板を設置するように頼まれた。
でも俺は大和田課長にその仕事について断りを入れる。
俺は冒険が終わってからいままで折ノ下鍾乳洞へ足を向けていなかった。
なぜなら、シアンと初めて出会った場所で……未だにシアンがいなくなったことが俺にはしんどくて、否応なしにシアンのことを思い出す場所にいくのは耐えられなかったからだ。
なので一度は大和田課長には断りをいれたのだが、
「僕は県庁での会議が入ってしまってね。鈴成くんとミカゲくんだったらすぐに仕事終わるでしょ? 青柳くんはそういうの苦手だし、女性には任せられないところだし、頼むよ」
と言い切って、さっさと会議資料を準備し、大和田課長は県庁へと会議に向かってしまった。俺はため息をつきながら、ミカゲへ連絡をとることにした。
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