第88話 鈴

 チリリン。


 ……白銀の世界の中で、微かに鈴の音が聞こえる。

 その音は、寂しくないている……小さなねこの声のようにも聞こえた。


 しばらくして、俺の剣から出た白銀の光が収まり目が慣れてきたころ、目の前にはみよちゃんが、女王様ボンテージの格好で倒れていた。あられのない姿だけど、残念な美人の姿に戻っていて、ツノは消えていた。

 すうすうと息をしているので、ただ寝ているだけだろう。



 チリン。


 ……また鈴の音が聞こえた。

 その音の出処へ行くと、あかねんの落としたスマホについている、猫のストラップについている鈴の音だった。俺がそれをみていると、その鈴の音とともにその猫の人形は小刻みに震えだし、やがてぽんと小さく弾けて黒紫色のねこにかわった。


『やっぱり、やられたか』


 魔王の声で、そのねこが話している。どうやら魔王はみよちゃんから離れ、剣の力により、元はストラップだったねこに魂を定着させられているようだった。そして最後の残った力でストラップのねこから、魔王は本物のねこに変身できたらしい。


『非力な姿になってしまったな』


 ねこの姿のまま、魔王は話す。


『もう我は貴様を滅ぼすことはできぬ。この地を独占することもな。……強大な力は、もうない』


 落ち込んだ様子を見せる魔王。さっきの白銀の光が田舎村全体に行き渡り龍族の力が優勢になったようで、土地が安定したらしくこの田舎村はもう魔王にどうこうできる場所ではなくなったようだ。


『過去には我の同胞が数多くいたのだがな。人が増えすぎて、人の手が入らない場所は、もう数少なくなっておる。……そんなところに我々は住んでいたのだ』


 尼さんのいた500年前あたりは、昔話でもよく鬼とか化け物という怪異が話の中にでてくるけど、魔王もその怪異の一つである、と話してくれた。

 今は人が増えすぎて魔王などの怪異そのものは少なくなってきたけど、それでも居なくなることはないそうだ。


『人の心の中にも闇はあるからな。物や土地も同じことよ。闇はどこにでもある』



「う…………」


 その時、倒れていたミカゲがゴロンと寝返りを打った。


「ミカゲっ! 大丈夫か!?」


 ミカゲの胸の部分を見てみる。魔王の爪に貫かれて、大出血していた怪我が……きれいさっぱりとなくなっている。


「……和哉、か? ていうか……俺、助かったのか……?」


 だるそうに横になったまま、ミカゲは自分の胸をペタペタと触り、怪我がないことを確認する。だけど、体力が著しく奪われている様子で、起き上がれないようだ。


「うぅ……ダリぃ……。学校んときの朝礼で倒れたときとおんなじだな……」


 どうやら出血したせいで、貧血を起こしたらしいミカゲは命に別条はないようで、俺は一安心した。


『貴様の放った剣の光。あれが影響しているな』


 シアンの剣の光。

 龍脈の力を利用している剣なら、生き物を活かす力を持っているんだろ、と面白くなさそうに魔王は言う。


 そうだ、あかねんとタローは……?


「おねーちゃん、もう食べられないよウフフフ……」

「お、おかあちゃま、今日もカロリーメイトですか……」


 なんだろう、嬉しいんだけど、あかねんとタローの夢が真逆のようで……でも似たような夢をみてんな、おい。

 しかし、2人も無事でほっとした。


 ……まだ心にぽっかりと穴は空いてるけど。



『我は人なんぞ、居なくなればいいと思ってるんだがな……』


 不機嫌そうに魔王は話す。ちゃっかり俺の肩の上に乗って、不穏当な発言をするのはやめてくれないかな。

 みよちゃんはまだ目覚めてない上に、寝相がすごいことになってるけどさ。

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