第87話 かけがえのない仲間たち
シアンが消え、俺は涙を流していた。
右手には、白銀に光ったままの剣を握りしめて。
「くっ! 和哉……っ。すまねぇ、俺も……ここまでだ」
魔王の爪を胸に受けたミカゲは、大量の血を流し、その場に崩れ落ちる。
残ったのは俺一人。
魔王の大きさは仲間の奮闘があり、かなり小さくなって、おおよそ大型犬ぐらいの大きさになっていたが、まだ余力を残しているようだった。
「仲間はみんな葬り去ったぞ。勇者、あとはお前だけだ」
魔王が俺に爪を向け、技を仕掛けるための魔力をからだに溜め込むようなしぐさをする。どうやら最大の威力で俺を葬るつもりなんだろう。
そんなさなかに俺はみんなと冒険した、くだらなくも楽しかった時間を思い出す。
あかねん、俺の背中に鼻水をこってり、付けてくれたよな。あれ一張羅のスーツだったのにさ。就職前だからって、母さんが半分代金を負担してくれたスーツなんだよ。
タロー。最初はキモ豚だと思ったけど、女の子って言えば大興奮しちゃってたけど……憎めなくていい奴だったよな。不満とか言わないで冒険を楽しんでたし。
ミカゲがつるはしで攻撃してきたとき、洒落になんなかったよなぁ。異世界だーっていうあかねんとタローとに挟まれていた俺は、異世界って言わないミカゲが仲間になってくれて……随分助かったんだぜ。
シアン……最初は小さいのに大変な使命を預けられて、苦労してるんだな、って思った。でも、魔王を倒したらずっと……俺とシアンで、シアンの望んでいた平穏な生活が、冒険を終えたあとは出来るんだと思ってたんだ。
……そんなみんなの犠牲で、俺は今、ここに立っている。
……だから、魔王を、倒す。
みんなとの冒険を思い起こした俺は、涙と、鼻水でグチャグチャになっていた。
そして時間をかけて、ゆっくりと剣を構える。その俺の動きに呼応するように、剣も光を増していく。
魔王は、構えた俺に飛びかかってくる。俺は、禊祓技をグレート・ケツプリさんからいっぱい習ったが、やっぱり……。
「面・胴・小手……、突きぃぃぃっ……!!!」
魔王の頭を一閃し、胴を弾き、俺へ攻撃してくる爪を叩き落とす。
そして最後に魔王の眉間へ剣を突き立てる。魔王の眉間に剣が突き刺さった瞬間、白銀の光がまばゆく爆発し、田舎村の、全部にその光が溢れ出した。
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