第86話 おわかれ

 いもざえもん……中の人はグレート・ケツプリさんだけど、が投げた七色いも爆弾の煙が晴れると、魔王はだいぶ小さくなっていた。

 最初はゾウぐらいの大きさの巨大な黒紫色の虎だったのに、今は普通の虎ぐらいの大きさまで縮小していた。


「よし、さっきはきつかったけど、今は余裕で押さえ込めるぜ!」


 ミカゲが仁王立ちで魔王の攻撃を防ぐ。俺に身体を削がれるのを嫌がった魔王は、すばやく動いて細かく俺たちにダメージを与えてくる。



「まずは、おまえからだ」


 ミカゲのガードが強固だと悟った魔王は、あかねんに矛先を向ける。身体が小さくなった分すばやさを増した魔王は、ミカゲをすり抜けあかねんの首元に食いつこうとした。タローがそれを阻止しようとして、あかねんのもとに駆け寄る。


「あ、あかね――ん!」

「大丈夫よ、バカタロー! よそ見しないで、魔王に……うっ!」


 タローに気取られたあかねんは、一瞬で首を魔王に噛まれてしまい、おびただしい血があかねんから流れる。

 そしてあかねんのポケットに入っていたスマホがカツン、と音をたてて落ちる。


「「「あかねん!!!!」」」

「……ふ、バカにしないでよね。わたしだって回復ばっかじゃ、ないんだから!」


 まだ喉は噛み切られていない状態のあかねんは、痛みをこらえたまま魔法を唱え始めると、あかねんの手に持っていた杖が緑黄色に光りだす。魔王に咥えられたまま、彼女は複雑な呪文を唱えて最後のフレーズが終わったとき、


「あは……わたしは異世界で平和に暮らしました、の結末じゃなかったんだ。……ごめんねタロー。……みんな」


 緑黄色の光が空から降りてきてあかねんと、それを咥えている魔王に降り注ぐ。あかねんの最後の魔法の威力で、魔王はあかねんを離した。

 あかねんはその場にぐったりと倒れたまま……動かない。



「魔王ー!! よ、よくもあかねんを…………」


 タローが呪文も忘れ、魔王に殴りかかろうとした。が、魔王の爪で一閃されてしまい、あかねんのそばに倒れる。


「あぁ、あかねん。ぼ、僕もやられちゃったよ」


 最後の力を振り絞って、タローはあかねんの手を握る。

 そして2人はそのまま動かなくなった。



「くそ、和哉。どうする?」


 支援魔法がないミカゲは、先程までのガードが効かずに魔王に押され始めている。あかねんやタローの支援がないミカゲは、俺に攻撃が来ないように一人で仁王立ちをし、魔王の攻撃に耐えている。頬や、腕などにどんどん傷が増え、ミカゲもやられるのは時間の問題だった。



「マスター。そろそろお別れの時間です」


 シアンが俺の隣で言う。え?なに?お別れって……?

 あかねんやタローがやられちゃったのに、シアンまで……?


 泣きそうな俺にぎゅっと抱きついてくるシアン。そして、手に持っている剣にシアンが触れると、シアンと剣、両方が白銀に輝きだした。


「剣の力を最大限に開放する。わたしはもう必要ない。だから……」



 さよなら、とシアンは言った。



 薄れ行くシアンを抱きとめようとする俺。でも、俺の手は空を掴むだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る