第82話 ターニングポイント

 魔王城へたどり着くまでには、猪狩山を登る必要があった。

 その猪狩山には、サイクロプスからドラゴンなどの巨大なモンスターが多く闊歩していた。闊歩しているモンスターは俺の禊祓技を使って変身を解いていくのだが、中身は人間ではなく、虫や動物である。

 やっぱり俺たちは虫や動物であれ、お面を剥がせばもとに戻るので、面倒だけど禊祓をしていく。モンスターに変身したからって殺していいわけじゃないからな。



「あれは龍じゃない」


 シアンが真顔でドラゴンと呼称がついたモンスターを否定する。そりゃ皮膚はボコボコしてるし、姿勢も地を這うタイプで、さらに俺が禊祓技をかけて元に戻った姿はトカゲだった。


「うん、そうだね、あれは大きく変身したトカゲだよ?」


 とフォローしておいた。シアンは俺の剣の封印を解く鍵という存在になっていて、ドラゴンには戻れないらしい。からだの一部分だけ……例えば手や顔なんかも一瞬だけは戻すことが出来るらしいが、それも1日1回までの厳しい制約があるらしい。そんなシアンは、


「龍型になればブレスで一発なのに……」


 と悔しがっていたけど、ドラゴンタイプのモンスターとの戦いは俺とミカゲだけで行えるので、わりと楽なほうであった。



「双龍破断撃っ!」


 ミカゲが、大太刀を鮮やかに一閃させる、がダメージは全く通っていない。

 そう……戦闘が面倒なのは、ゴーストタイプのモンスターである。物理攻撃が全て効かないので、ミカゲが役に立たないところがきつい。俺はやっぱりプロジェクションマッピングなのかな……と現実逃避したくなる。


 だって、こんな不思議な世界に田舎村が変わるだなんて、思っても見なかったもん。こりゃ、あかねんやタローが言っていた異世界と変わらないわ。と心の中でこっそりと、ここは変な世界になってしまったんだなぁ、と認めた。

 まあ俺は流されやすいし、洗脳だって簡単にされちゃうよな、これじゃ。



「ホーリーアセンションっ」


 あかねんが破邪の呪文を唱える。以前より威力が格段に増したホーリーアセンションだ。効果も絶大だけどゴーストの絶対数が多いので、倒すまでに時間がかかってしまう。


 そんな戦いとお面回収を繰り返していくと、夜になってしまった。山の中腹あたりまで進んできたが、まだまだモンスターの数が多く、城までの道のりは遠かった。


「集中力切れてくるなぁ、ちょっとでも休めればいいんだけど……」


 オーガに先ほど不意打ちされてしまい、全員がかなりのダメージを受ける。回復するのはあかねんだけなので、あかねんの消耗が一番激しい。

 これから魔王城に乗り込んで魔王と戦うというのに、このままの状態を続行していたらヤバい気がする。


「レベルアップしたから、もっと楽かと思ったぜ。ここの戦闘は龍族トレーニングとあまり変わらねーってか、休憩がない分ハードだぜ」


 ミカゲも、剣の振りに冴えがなくなってきている。



「ふっ、そ、そんなこともあるかと思いまして……!」


 タローが野営の準備をしてきていた。やたら荷物がいっぱいだなーと思ったのは、キャンプ用品を持ってきてたのだった。ちなみに魔法の鞄的なアイテムはないので、タローが一人で大きな荷物を担いできていた。その分、戦闘時には微妙な参加だったけど。


 テキパキとキャンプの準備をするタロー。いつものモタモタした動きではなく、かなり慣れた手つきでテントを立てる。

 これは……熟練のキャンパーだ。素人じゃない。


「お、おとうちゃまとおかあちゃまとで毎年キャンプしますからね。最初は見てるだけだったけど、やると面白いです」


 黒魔導士のコスプレをした、いいパパさんな空気を醸し出すタローを見ていると、ただの登山しながら星空を眺めにきた仲間っぽい雰囲気だ。

 ……たまに出る大型トカゲなどのモンスターが居なければ、だけど。



「龍脈を借りてモンスター避けにする」


 シアンがテントを中心にした5m四方に、自分の指先を切って血を垂らす。4箇所めの血を垂らしたあと、シアンが何か聞き取れない呪文を唱える。

 4箇所が繋がって、淡い金色のラインがテントを囲む。


「これでめったにモンスターは入ってこない」


 シアンの手を、あかねんがすばやく手当していた。

 そして、タローは胸元からおもむろに……。


「ちょっと待て――――い!!」


 俺が制止するものの、タローは例のあの干し肉を出した。

 それはタローの胸でしっかりとあたたまった一品である。干し肉にちょっとスパイシーなタローの体臭がついていて、ちょうどいいアクセントになっている。

 ……ってちが――――う!!


 だが他に食べるものもなく、さらにタローの純粋な瞳と満面の笑みに、俺とミカゲ、シアンは仕方なく愛想笑いで干し肉を受け取った。

 あかねんは付き合ってんだろうから平気だろう。はぁ……。



「キャンプと言えばカレーじゃないのか」


 手元の干し肉を見て、シアンが言う。

 ああ……そう言えばカレー、食べてないもんな。

 俺たちはちょびちょびと干し肉をかじりながら、シアンに落ち着いたらキャンプしてカレーを食べような、と約束した。

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