第81話 光あれ
小高い山の上、魔王城はそこにあった。
魔王城を目の前にし、俺は役場での行動を思い返していた。
佐藤先生たちと別れたあと、村長や大和田さんが無事かと思い、念のため役場に行ったのだが、村長も、大和田さんも光あれのおっさんも、みんな魂のない人形のような感じで、それぞれの割り当てられたセリフを口にしていた。
光あれのおっさんに何度も話しかけるも、今度は懐中電灯ではなく頭が光るようになっていた。……魔王よ、これはいくらなんでも悪意がありまくりだろう。
ただ、俺たちは、光あれおっさんに何度も話しかける必要があったのだ。
「おお、勇者に光あれ!!」
もう何度やったことだろうか。
アプリではMPがちょっと回復する仕様になっているが、おっさんの頭も光あれってするたびに輝きを増している。よし、これは周りの人たちは吹き出すだろう。
でも……ダメだった。
周りの人たちは、俺たちの行動が見えていない感じでボーッとし、おっさん自体もけっこう髪の毛がヤバいのに、普通に光あれってしていた。
「……和哉、もうそのぐらいでカンベンしてやれよ。おっさんが元に戻ったら落ち込むぜ?」
ミカゲが俺を止める。
気づいたら、俺は光あれおっさんに100回以上話しかけていた。
「この技、髪の毛1本消耗する」
シアンが新しい技を覚えてきていた。その技や魔法がどういうものかを割り出す瞳を手に入れたのだ。詳細まで見えるらしく、魔王との決戦時にはかなり役立つ技だろうと予測できる。
ドラジェさんが以前に話していたが、龍族の女性は髪の毛の長さによって魔力の総量が決まるらしい。なので、出会ったころのシアンより髪の毛が伸びた今はシアンの魔力が成長している証なのだ。
なのでドラジェさんは、シアンよりお姉さんな上に相当やり手らしいとのこと。
「ほら、和哉……ものすごくやべーぜ?」
ミカゲは一緒に働いている作業員の方々もハ○が多く、少ない髪の毛の人は苦労してるみたいな話をよく聞いていたらしい。
……そうだな、なにも変わらないしやめておこう。
タローは恐ろしい化け物のごとく、俺を見ていた。そしてぽつりと言った。
「その人は、ぼ、僕のおとうちゃまです……」
衝撃の事実である。このおっさんはタローのお父様であった。
「ええええ! うわぁ……ごめんタロー」
「い、いやいいんですよ。おとうちゃまには今回の光あれで髪の毛が減ったことは内緒にしておきます……」
「……あーあ、やっちまったな」
「わたしでもそこまでは……。義理のお父さまになる人ですし……」
「マスター」
はいすみません。申し訳ありませんでした。
俺はみんなに土下座した。
周りの職員はそんな俺たちを、やっぱり魂のない表情で見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます