第80話 始めるぞっ!

「村長と、村の職員さんですか? さあ、こちらには来ておりません」


 佐藤はじめ先生は言う。

 無事助かっている人たちの中では、役場の職員たちは一人も来てないそうだ。


「そうですか。魔王の居場所などを、村長や職員……大和田さんというんですが、に調査してもらうように頼んでいたんですが……」


 佐藤先生は、落胆したような表情で、俺たちの質問に答える。


「ここに顔を出してない……ということは残念ながら、呪いに飲み込まれていると思います。ただ、魔王の居場所なら知っていますよ。猪狩いかり山という、山頂に祠のあった山にいるそうです。あきさんっていう主婦の方が、魔王がそこの山に入っていくのを目撃していたそうです。あきさーん、お話があるそうです」


 佐藤先生に呼ばれ、あきさんという主婦の方が俺たちの前に来る。

 あきさんっていうのは、俺がヨネばあちゃんちの封印の石を触った後に遭遇したスライムになりかけてた主婦の方だった。

 あきさんは俺たちに、そのせつは有難うございます、と丁寧に挨拶してくれた。


「うちの家が猪狩山のそばなんですが、なにか黒くて大きな鳥みたいなものが、午後3時ごろに飛んできて、猪狩山の山頂のあたりに降りたと思ったら、直後にドーンという音が聞こえてきたんです。そのあとしばらくしてから、そこから紫色の煙のようなものが出るようになりました。今は村全体が紫色の煙に覆われてしまっていますが、はじめに目撃したときにはびっくりしました。……だからあの飛んできたものは、魔王だと思います」


 それに、と、あきさんは少し悲しそうに付け加えた。


「わたしの夫と娘が繰り返すセリフが『魔王様はここにおられる』と言ってるんです。もう、そればかりで……。大きなモンスターも借金取りのように、うちの前をうろうろしはじめて、わたしはもう耐えられません……」


 とあきさんは、目に涙を溢れさせた。

 むしろ借金取りが普通のスーツなのに対し、うろうろする対象がサイクロプス並の大きなモンスターだと、ものすごく怖いだろう。


 ただ、あきさんたち一般村民の人はノンプレイヤーキャラクター扱いで、その大型モンスターは襲ってこないそうだ。

 そのあとあきさんは、猪狩山の山頂に大きな建物が建ったと教えてくれた。禍々しい黒いお城みたいなもので、それが以前に魔王が言っていた……魔王城なんだろう。



 一通り話し終えた後、あきさんは調理室で作った食料を家に持っていくそうだ。魔王を退治する前にはうちにも寄ってください、と声をかけてくれた。



「……勇者様、お久しぶりです」


 元サイクロプス社の少年が、俺の前に来て挨拶する。

 俺たちの居なかった3ヶ月の間に警察の取り調べや少年院に行ったりして、いろいろあったらしいが今は無罪放免になっていたらしい。


「罪自体は重かったんですが、学業と少年院での態度が良かったらしくて、すぐに出されました。もちろん、もうおじいさんやおばあさんを騙すような行動はしません」


 村が異常になってから少年は佐藤先生をサポートしているらしい。

 今のこの集まりも、みんなが同一の言葉しか話さないという異常事態なので、佐藤先生が主導のもとで無事な人だけが集まって会話したり料理が作れない人のために食料を配布する場を設けたほうがいいということになったらしい。なので今は調理をして食べていくもしくは無事な人に食料を配布するために集まっているそうだ。


 少年からこの集まりの説明を聞いているときに、佐藤先生もやってきた。佐藤先生は少年はよく働いてくれていると言っていた。どうやら少年は佐藤先生の教え子らしくて、将来は学校の先生になりたいと話していた。


「残された人たちは大丈夫そうですね。でも……」

「そうだな、和哉、分かってるよな」

「マスター」

「そ、そうですよ! 咲ちゃんのおかあさんもおとうさんも大変だって、話してましたし」


 おい、タローよ。

 ちゃっかり咲ちゃんと会話してるんじゃないよ。でも。



「よし、みんな…………行こう、魔王城へ!!!!!!!」

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