第79話 勇者のデ・コ・ピ・ン

「この調子だと、村長や大和田さんも魔王に喰われている可能性がありますよね」



 あかねんが、恵奈ちゃんちを出たあとに言った。たしかに面胴小手を村長にも大和田さんにもやっていないので、俺の予想としては「ようこそ!」って言ったり、「おお勇者よ!」とかそんな感じでしっかりと呪いがかかっている状態なんだろう。


「まあ、ゴールドスライムさん……いや、佐藤はじめさんに話を聞けば、なにかわかるんじゃないかな? ひょっとしたら、村長も大和田さんも無事かもしれないし」


 ゴールドスライムさんの本名は恵奈ちゃんが教えてくれた。それまで俺たちはゴールドスライムさんとばかり呼んでいて、名前を知ろうとはしなかったので、本名を知ったときは意味もなく衝撃を受けたのだった。


 それはさておき、俺たちは田舎小学校へ向かうことにした。恵那ちゃんちからは徒歩10分の場所にある、のどかな小学校である。

 着いたら早速カラカラと、職員室のドアを開ける。


「あの――佐藤先生いらっしゃいますか?」


 と、俺が近くの先生に声をかけると、


「我々はスライム一族の血を引いている。むかしの祖先がスライムだったのだ」


 って帰ってきた。

 ……あかん、誰に聞いてもロールプレイングゲームだな。ていうかロールプレイングゲームにしても、スライム一族というのは意味わからん発言だろう、それは。

 むしろ、先生全員がスライムのお面を配られたタイプなのだろうか? でも念のために職員室の全員に声をかける。


「ゴールドスライムの子孫と呼ばれる方は、調理室におりますわ」


 ちょっと可愛らしい、淡いピンクのカーディガンを着た先生が、そんなことを言っていたので、俺たちは調理室へと向かうことにした。



「勇者様ですね! 僕のこと、覚えていますか? スライムこと、佐藤はじめです」


 調理室の黒板に立っていろいろ説明していたゴールドスライムさん、いや佐藤はじめ先生がこちらに歩いてきておじぎをする。

 先生の印象はハキハキと話し、爽やかな体育の先生っぽい感じの人だ。はじめて遭遇した当時はちょっと話しただけなので、爽やかとかの印象はなくただのおっさんって感じだったけれど。


「いやー、勇者さまのデコピン、強烈だったです」


 と額をさすりながら、爽やかに佐藤先生は言う。ていうかそこまで激しいデコピンしてないぞ? ……多分。

 最初のモンスターさんだったからかなり遠慮したと思うし。

 ひとしきり佐藤先生と、デコピンの頃を懐かしがった。

 そういえば、ここの調理室に集まっている人たちはガヤガヤと雑談をしまくっていて、どうやら呪いにはかかっていなそうだった。佐藤先生に話を聞くと、この人たちは元モンスターさんたちで、俺に面胴小手を喰らった人たちらしい。


「うわわっ、す、すみません……」


 俺は慌てて謝るものの、元モンスターさんたちは俺たちを暖かく迎えてくれた。

 というか、俺にお礼を言いに来た。

 正直、たけのヤリコンビニでバシバシとたけのヤリを打ち付けてた人たちなので、顔をちっとも覚えてないけど、悪くはないな。

 ……うむ、苦しゅうない。



「マスター、顔がたるんでるぞ」


 シアンにビシっと指摘される。はい、すみませんごめんなさいもうしません。

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