第83話 タローのフレーバー
猪狩山の中腹ぐらいの村のほぼ全体を見渡せる場所で野営をしていた俺たちは、紫色の瘴気がくっきりと、田舎村の中だけに充満しているのが見て取れた。
隣の市や町などには、魔王の紫色の瘴気は届いていないようだった。
「魔王の呪いって、村だけなんだよね? ……ということは500年前だったら、村の行き来とかはなかなか出来なかったんだろうけど、今は車なんかですぐ行き来ができる。なのになんで自衛隊とかそういう騒ぎにならないんだろ?」
俺はずっと疑問に思っていたことだった。
俺たちが冒険を始めた当初の村おこしのレベルなら、まだ田舎村の人たちは俺たちがいなかった場所では通常の生活が出来ていた。
でも、今の魂の抜けた状態になっては、田舎村に入ってきた人たちが話しかけたりしたら、通常通りに生活は出来ていても違和感はあるだろうから、なにかの伝染病などの騒ぎになっても、おかしくないだろう。
「俺んとこの会社は、ほぼ村内の工事だから通常の仕事に問題はないだろうなぁ。でも、取引先なんかは村外も多いんだよなー。そういうところから電話なんかで連絡が来て、受け答えがまともじゃなかったらたしかに騒ぎにゃなりそうだな……」
ミカゲも俺の意見に同意する。
タローやあかねんは、異世界だから都合の悪い展開はないんですよ! そんなせちがらいこと言わないでよ! とジャンキーな目をしてさらには、つばを飛ばしながら話していた。
……そろそろこの2人も末期だよね、これ。
「魔王、結界持ってる。他の人は気づかない」
シアンが俺たちの謎に答えてくれる。つまり、呪いが耳鳴りだけだったときには、村の中への出入りは自由だが、俺たちに会ったときにだけ強制的にロールプレイングゲーム風な言葉を話さなきゃいけなくなっただけの呪いだった。
その当時は村から外に出てしまうと、村の中の出来事の一部……村おこしである田舎ファンタジアの現象を忘れてしまうだけだった。
なので、朝に田舎村に通勤してきた時点でふたたび呪いがかかり、ロールプレイングゲーム風な言葉を話していた。
最初はそんなゆるい感じでよかったのだが……。
「結界って言うとアレか、村に入れなくするとかそーゆー奴なんだろ?」
「違う。村の存在自体を忘れさせてしまう結界」
シアンが説明する。今の呪いは、田舎村に入ってきたら即時に呪いがかかり村から出るという行動を起こせない。出られなくなった人の家族や知り合いなどは、その人が存在していたということを忘れてしまうんだそうだ。
つまり、この田舎村だけが世界から隔離されているってことか。
「んん――? それじゃもう異世界になるんじゃ……?」
「それも、違う。田舎村は存在している。龍脈でつながっている。魔王が普通の生活を邪魔してるだけ」
タローやあかねんのように、能天気に異世界だ――って思えたら幸せなのになぁ。
……だけど実際は田舎村はここにあって、俺たちも住んでいる。
「大元はやっぱ魔王か。早いとこやっつけて、田舎村を元に戻さにゃならんな。あー腹減った。アガリ屋のラーメン食いてぇ」
ぐう、と大きい腹の音がミカゲから聞こえた。
ぐぐぅ、とさらに大きな腹の音がシアンから聞こえた。
「マスター。カレー欲しい」
俺も負けじと腹の虫を鳴かせた。そんな俺たちを見たあかねんは、
「異世界の決戦前なのに、なに甘いこと言ってるんですか?!」
と言っていたし、タローは懐から追加の干し肉を出していた。くそー、タローの懐のフレーバーがついててもこの際いいからさ……ラーメンとカレーとグラタン出してくれよ。干し肉はもういいや。
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