第75話 レベルインフレ
「君たち!!! よく頑張ったな!!!」
「一番!!! キレてる!! キレてるぅ!!!!!」
「仕上がってるよ!!! 血管浮いてるネ!!!!!」
「ナイス! 上腕二頭筋っ!!! チョモランマぁ!!」
トレーニングを全員が終え、くたびれて寝転がっている間に、龍族の男性たちはなにか演台というか、特設の舞台を用意していた。結構大掛かりな舞台セットであり、緞帳などもご丁寧に準備してあった。
俺たちはからだをピカピカに磨き上げられ、水着のようなものを着せられる。
ミカゲとタローは壮大にいびきをかいていて、龍族が俺たちのからだにいろいろ施している間も超寝ていた。あかねんは少し離れたところで公開着替えショーのようなカーテンのついたボックスに入れられて、やはり女子用のきわどい水着に着替えさせられていた。
一通り準備を終えたあと、舞台の袖から俺たちは舞台に上がらせられた。そして龍族指導のもと、ポージングを取るように言われる。
ミカゲは舞台に上がる前に目が覚めていたが、タローはずっと眠りっぱなしだったので舞台に放り投げられていた。その様子はまるで豚である。
そして口々に微妙なセリフを、龍族の筋肉隆々なおっさん……いや、男性たちが叫ぶように言う。
俺にはその言葉の意味がわからなかったが、ミカゲはボディビルじゃねぇよ、と突っ込んでいた。
……どうやら、龍族トレーニングというものが終わったようだ。
俺はグレート・ケツプリさんから、
「ふんっ! 勇者は穢の影響を払うのが主な仕事になるからなっ!! だからきちんと覚えなければならんっ!!!」
いちいちポーズを取りながら、グレート・ケツプリさんは俺に剣技を伝授する。
「剣は穢を払う一番の方法だ! 素直な姿勢で、いくら相手が穢であっても礼節は欠かさない、それが一番大事なのだよ。ふんっ!」
なんだか、剣道を習うときに聞いたようなことだな。
そのあとも俺は、順調に技を習得した後に、
「腰、ふともも、ケツ。それが一番重要だ。勇者はもっと下半身を鍛えなさい」
というよくわからない助言をもらったが。
龍族の男衆から、俺たちへのあつくるしい賛辞が終わったころ、ドラジェさんとシアンが来た。
「ほら、シアン。挨拶なさい」
「でも姉様……」
微妙にドラジェさんの後ろに隠れているシアン。若干照れてるような、気まずいようなそんな雰囲気である。
そして、しばしの時間をおいて、シアンが観念したように俺の前に出る。
「か、髪の毛がっ」
「ぼ、僕のつるぺたみずいろボブヘアが――――っ、ぐうっ!!!」
シアンの髪の長さが、15cmほど……およそ、腕の真ん中ぐらいまで伸びている。さらに、シアンの雰囲気は、髪の毛が長くなったこともあるだろうけど、若干大人っぽくなっていた。
タローが残念がるのもしょうがない。
ボブヘアではなくなっているからな。
そしてあかねんの肘打ちも、レベル300なので強烈である。
「マスター、わたしもつよくなりました」
そういうとシアンは俺の剣に触れる。剣の柄がシンプルだったものから、青い宝石のついたゴージャスな柄に変化し、刀身も真っ白だったものから、白い刃に青い稲妻が走ったような刀身に変わる。
「サファイアの加護。剣の光の効果が強くなる。攻撃力も格段にアップした……アップしました」
「うん? 別に言葉遣いは丁寧にしなくていいのよ? シアン」
俺がそう言うと、喋りづらそうにしていたシアンは、以前のままの言葉遣いで剣の効果を説明してくれた。
なんでも、昔あったスライム主婦さん的なものなら、剣を抜かなくても効果を発するらしい。うん、すごいぞ。
それを皮切りに、装備品を龍族からもらうことになった。俺の鎧もプラチナっぽい金属で、少し青く光っている。どうやらサイクロプスの少年が持っていたピアスと同様の、ヘマタイトを混ぜ込んだ鎧らしい。
「ヘマタイトは魔王が嫌う金属です。それを身に着けていると、魔王から魂を吸い取られる効果は受け付けなくなります。ただその他の攻撃については完全に防ぐものではないので、注意してください」
サイクロプスの少年が持っていたピアスに関しては、ヘマタイトの組成を魔王に合わせるように魔改造してあったらしい。なのでシアンが嫌っていたようだ。だが、この装備品については龍族が加工したものなので、俺たちを加護してくれるそうだ。
鎧は、自分にぴったりフィットした剣道の道着以上の着心地である。
動くのも楽だぞ、これ。
そして、俺には兜はなく、頭輪をかぶった。よくあるRPGの勇者がかぶっている伝説の兜デザインで、額のあたりに剣と同じサファイアがついている。
たぶんこれも禊祓の効果を上げてくれるものなんだろう。
……布の手袋だった頃と比べたら、いよいよ本格的な勇者になってきたぞ。
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