第66話 田舎村の民俗学

「ここの土地は、とある尼さんから始まった村という伝承があります」



 テーブルの上にジュラルミンケースを置く大和田さん。それを開けた中には、ボロボロになった本と布にくるまったなにかが入っていた。


「これは、尼さん、と呼ばれるかたが所持していたものの一部です。現存するものはこれしか残っていなくて、本は変色し特殊な判別方法をしても解読出来ませんでした。そして、もうひとつ、謎なものがあるんです」


 そういうと布を解き、なにか楕円の石っぽいものを出した。大きさは縦20cm、横10cmぐらいの真っ黒な石。


「この物体を専門の研究機関に出したのですが、隕石と思われるものではないかとのことでした。地球上に存在しない物質が何点か発見されたようです。そして、この不思議な物体は信仰対象として丁寧にとある祠に祀られていました」


 大和田さんは僕の専門外ですからと、この物体の組成についてはそれ以上追求しなかったようだ。でも、なぜ隕石が信仰対象らしきものになったのかは考察していたようだ。


「ある意味SFなんですけどね。尼さん自体が宇宙人とかそういうものなんじゃないかなと思い始めているんです」


 日本にはない独特の村の境界、つまり村の地区の境目などが昔では考えられないような不思議な模様になっていることや、民俗学上では意味のないポイントに石碑がある、というものらしい、と大和田さんは説明してくれた。

 そのあとはマヤ文明だのインカ帝国だの、若干知っている単語は出てくるものの、大和田さんが言っていることがよくわからなかったので、俺は適当に流しておいた。ミカゲとシアンもそんな感じで、退屈そうに紅茶を啜っていた。


 あかねんは興味を示すんじゃないか? と、チラッと見たら、タローとイチャついてやがった。ここ、多分一番盛り上がってきて秘密が解明されてるシーンだよ?

 そんなあかねんは、やだぁウフフフ、なんてゴソゴソ話してたので、俺は仕方なく大和田さんの話を聞くことにした。その大和田さんが話す言葉の理解は1ミリも出来てないけど。


 みよちゃんに限っては、高いびきに鼻提灯で超爆睡していた。残念な美人だ。



 それからたっぷり1時間も、大和田さんはよくわからない単語をはき続けた。

 俺たちがゲンナリした顔をしても、この人は構わずに話すタイプだ。むしろ話している大和田さんの目を見たら、目つきがジャンキーだった……あかん。

 1時間もの間、ずっとお経を聞いて眠気を抑えるようなそんな苦行を強いられていた。でも正座しながらじゃなくてよかった。



「田舎村自体が、昔は人の手がなにも入っていないところに唐突に出来た村でした。だから、誰もいない、何もないところで尼さんの考えた術を発動するためだけに作られた村なんですよ。つまり田舎ファンタジアの世界観を尼さんは反映させようと考えていた……と思われます。そして、田舎村が出来て以降、何度か今の事態田舎ファンタジアが起こったんです。それを示す文献は、村の文化センターに保管されていました」


 父さんの口ぶりは勇者になりたかったー、だもんな。そこから考えると、俺より以前に勇者として戦ったご先祖様がいるのか。それなら父さんが廃人になったことも……頷けるか! こら!


 そのことを大和田さんに話すと、


「そう、鈴成家は代々勇者を輩出する一族なんです。そして、尼さんの子孫でもある。おかしいよね、この異常な状態田舎ファンタジアの発端となった血筋が勇者になれるなんて。でもそこは、尼さん本人じゃないと解明できないことだと、今は結論づけています。推測ではいろいろと考えられますけどね」


 そういうと大和田さんは、一呼吸置き、違う話題を振り出す。


「でまあ、術が発動する種類の鉱石というのがあるんです。ヘマタイトっていうんですが、鉄に似た素材なんですけど、金属の組成が術の発動に関係あるみたいです」


 あ、ひょっとして、あのピアスって……。

 ゴソゴソと俺はお手製バッグを漁る。そして、詰襟の少年の持っていた立方体つきのピアスを大和田さんに見せる。


「あ、これ、ヘマタイトですね。どこでこれを……?」



 そのとき、超爆睡していたはずのみよちゃんが、ゆらり……と立ち上がった。

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