第65話 告白
「僕はね、日本の民俗学を専攻してたんだよ」
大学時代に大和田さんは興味のある日本の小さな地区独特の風習や習慣などを専攻して、いろいろ調べていたらしい。みよちゃんとは大学時代の先輩後輩にあたる関係で、大和田さんが大学4年のときにみよちゃんは大学1年だった。
大和田さんの祖父が田舎村出身なのと、みよちゃんが田舎村出身とのことで互いに仲良くなり、大和田さんの知らなかった田舎村の成り立ちをみよちゃんから聞いて、かなり興味を持ったそうだ。
「でもね、バイトしてたところが大当たりしちゃってさ。そっちで仕事をするようになったんだ」
大学を卒業する間際、アプリゲーム開発会社のバイトをしていた大和田さんは、中心になって開発したアプリが大当たりし、身動きがとれなくなったそう。
やっと2年前になって、アプリを人に任せることになって、そこの会社を退社したらしい。
「ほんとは卒業してすぐ、田舎村役場に就職したかったんだよね。ここの民俗学を調べながら仕事ができる最高の環境だったし」
役場の嘱託職員として、2年前から情報部に配属された大和田さん。みよちゃんとは遠距離恋愛をしていたようだが、結婚しようという話になったのは、大和田さんがこっちに越してきてかららしい。
「美夜子のお父さん……村長に結婚の了承を貰いに行ったんだが……」
大和田さんの祖父の時代は、田舎村の中で豪商と呼ばれるほどかなり力のあった一家だったらしい。古くからの一家であり、一族の人数もその当時の田舎村の半数の人数ぐらい居たらしい。
祖父が会社を興して事業を行っていたが、その事業が大当たりし田舎村から都会へ移住することになったそうだ。田舎村で行う事業は継続するものの規模は小さくし、事業拠点を都会へ移すことに決めたそう。
だから、大きな一族のほぼ全員が田舎村を離れることとなり、残された田舎村の村民は人口流出問題などの過疎化の問題や、空き家などの管理などに苦労したようだ。
「移住したのは祖父の時代だったけど、それはいまの6つ前の村長の代だったよ。今までは村の開発や新興住宅地を作って人を呼び込んだりしていたみたいだけど、なかなか成功せずに今の村長も苦心しているそうだ……」
大和田さんは悪くないのに、申し訳ないような言い方で話す。そんな大和田さんの手をみよちゃんがぐっと握る。
……ああうん、俺たちが帰ったらゆっくりやってください。なんでも。
「で、そのことを村長に詫び、結婚を許してもらおうかと思ったのですが……」
一度捨てた故郷に謝って許してもらおう、さらには大事な娘をくれだなんて、図々しいにもほどがあるな、と、みよちゃんの父親に一刀両断されたらしい。まあ村長も仕事面でもプライベートでも大和田一家に蹂躙されているようなものだから、そりゃ怒るだろうなぁ。
「許しを得るまでは時間がかかりそうだと思い、僕はお義父さんを説得することにしようと思っていたのですが、美夜子が……」
「だって! お父さんは許してくれないよ」
と大和田さんとみよちゃんが2人でうるうるしている。
「……僕は一介のサラリーマンでしたし、ここの会社の跡継ぎは僕の従兄弟へ行きました。でもここの別荘地だけは譲ってもらったんです。だからこれからは村、いや村長のためにと古い文献を調べ、村が活性化するような方法を考えたんです……
それが、 田舎ファンタジア です」
そして、深々と頭を下げる大和田さん。黒幕はこの人なのか。
「ただ、古い文献には記載されていないことが、まだあるんです。以前にもこの呪いをこの村で発動させたという記述はあるんですが、最後はどうなったかということは文献には載っていません。今、ここが平穏ということは、その当時は解決したのでしょうが、その過程までは載っていなくて。だから、僕はここまでの予測はついていましたが、これから先は未知の領域なんです」
大和田さんは冷めた紅茶を口にし、一息ついた。
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