第64話 ハーゲンダッツ

「魔王!! そこまでだっ!!」



 別荘に乗り込む俺たち。そこは大きな柱に壁、床、全てオーク色の木材で出来ており、大きな窓ガラスがはめ込まれたセンスのいい大邸宅だった。

 広く明るめの玄関から、俺たちは乗り込む。


 大きな廊下を抜け、先にある居間に入ると先程のコンビニで買ってきたばかりのアイス、しかもハーゲンダッツをみよちゃんとメガネマスク男が高級そうな革張りのソファーに座って「はい、あーん!」としている途中で、こちらを見てびっくりし動きを止めた。


 ……数秒の沈黙が訪れる。


「あ、いや、その、ゆ、勇者、こ、これは違うのよ!!」


 みよちゃんがうろたえて立ち上がる。ぱらりとタオルケットローブがみよちゃんから落ち、頭があらわになる。


 みよちゃんの頭にはグネグネとした、悪魔のような黒紫色のツノが生えていた。だが大きさが小さく100円ショップのカチューシャについた、ハロウィンのツノ飾りみたいなものすごく安っぽいクオリティのものであった。俺にでもわかる、これはちょっとしたコスプレにも満たない扮装である。


「いやーーー、見ないでーー!!!」


 恥ずかしそうにしゃがみ込みながら、ツノを隠すみよちゃん。

 ……え、タオルケットローブのほうが恥ずかしいでしょ、これ。


 一人キャーキャー言うみよちゃんと、それをヨーシヨシヨシとなだめる男。なんかもう……グダグダな戦いな気がしてきた。



「あ、大和田さん……ですよね?」


 あかねんが男を見て言う。大和田? ええと誰だっけ?


「ようこそ! 田舎村にある田舎城へ!! ……なんてね」


 立ち上がり、メガネとマスクを取り男は言う。あー、ようこそ職員ね、はいはい。ニヤニヤと笑う大和田さん。みよちゃんはそんな大和田さんを見て、ケイスケ様……と目をハートマークにしていた。

 ……いろいろと突っ込みたいことがてんこ盛りだ。



「まあ、座って」


 俺たち、とくに俺はツッコミをするかどうかかなり迷って突っ立っていた。みよちゃんのツノも、なんで大和田さんがここにいるのかとかも、そしてみよちゃんと良い感じの雰囲気のことも、ようこそって喋らない大和田さんのことも。

 なので俺たちは剣を抜いたまま固まっている。


「美夜子は魔王だけど、なにかできるわけでもないから大丈夫だよ? だから座ってくれ」


 そう言われ、俺たちはしぶしぶソファーに座ることにした。ミカゲに目線をあわせるが、ここは従うことにしよう的な感じだったので大丈夫だろう。シアンはというと、どうでもいいような顔をして、さっさと座っていた。俺もシアンの隣に座る。ふかふかである。


「ふむ、なにから始めようかな……ここの土地についてのことからでいいかい?」


 みよちゃんに飲み物を持ってくるように、と大和田さんは指示を出し、みよちゃんが持ってきた紅茶が全員に配られたところで、大和田さんがおもむろに語り出した。

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