第63話 恋人はメガネマスク

「……すまんな。どうしても娘のこととなると、冷静になれなくてな」


 小さい娘に叱られたのかショックだったのか、村長はうなだれるように碇ゲンドウのポーズをやめる。まあ、普通にしてたほうがいいよ、村長。


「美夜子を唆す男は、美夜子に会って聞いてくれ。わしはその人物が気に入らんから、名前すら口に出したくないのだ」


 そういうと村長は、俺にくるくると巻いたA4のコピー用紙を渡す。


「この地図に描いてあるところに、美夜子と奴がいる。よろしく頼むぞ勇者よ」


 よし、みよちゃんの嫁とかの問題はあとにして……地図ゲットだぜ!




 そこは、ペンションhayashiがある山奥まではいかないけれど、比較的開発が進んだところ。わりと新しい住宅地に囲まれた木立の中にその建物はあった。

 建てられたのはかなり古く、新しく立った住宅地の敷地のおおよそ5倍の広さをその建物と木々で専有している。なので、新しめの住宅地からだと木が邪魔して様子を伺えないぐらいの、超がつくほどの大邸宅であった。


「ここってウッドっていう大会社の別荘ですよね」


 以前はここの周りも住宅地ではなく、閑静な森に囲まれた別荘地になっていたそうだ。それが現在の不況と築年数の経過により、別荘を手放し解体するところが相次いだそうだ。

 そこでここの周りの不動産会社は、別荘地から方針転換をし分譲住宅の並ぶ場所になったのだった。


 大邸宅の持ち主だと言われるウッドという会社は、林業を主にやっている会社で、とある材木事業が大当たりしたそうだ。なので、この別荘も手放さずに、こまめな補修を行い未だに利用しているらしい。


 みよちゃんは村長……親と喧嘩をして家出して、好きである男の元へ押しかけたようだが、好きだという男の住んでいる場所が、ここの元別荘である大邸宅であった。



 俺たちは木に隠れながら邸宅を眺める。センスがよく古さを感じさせないデザインで明るい色の木材をふんだんに使ったおしゃれな木の家、という感じだ。


 夕方近いし、今日はなにも動きがないかな、と思っていたときに、みよちゃんらしきローブの女と普通の男が別荘から出てきた。いやあのね、使い古しのタオルケットを縫い合わせただけのローブを、しかも休暇中まで着てることはないと思うのよ。

 まあ個人の自由だけどさ。


「あれだな、女って歳取ると格好とかどうでも良くなってきて、オバちゃんになるのかねぇ。三代目は美人だけど、残念だな」


 ミカゲがみよちゃんを、哀れな目で見ている。


「わ、わたしは年齢を重ねても、ああはならないようにしたいと思います」

「あ、あかねんはリリスコスするんでしょ? 楽しみにしてるからさぁ、俺の部屋でコスしてくれないかなぁ……」


 とりあえずシアンと俺は仏頂面でそこをやり過ごした。



 一度みよちゃんたちを出かけるところを確認する。車はシルバーの軽。そこをミカゲがスマホで撮影する。二人が去っていったあと先ほど撮った画像を確認し、写真を拡大して人物を特定する。

 ローブの女は間違いなくみよちゃんだった。


「この男の人、メガネにマスクで特徴が掴みづらいですね」


 男はまるっきりサングラスにマスクという、変装スタイルである。まさか芸能人じゃあるまいな? と思ったけど、そんなオーラがありそうな人物ではなかった。しかし、みよちゃんとのツーショットを撮られるとマズい事情でもあるんだろう。


「乗り込んで引っぺがすぐらいしなきゃ、この男は顔をみせねーよ」


 全員でうーんと悩んでしまった。が、そんなことをしているうちにみよちゃんたちが戻ってきたらしい。どうやらたけのヤリを販売していたコンビニに行ってきて、なにかを買って帰ってきたらしい。


 そして、また別荘へと入っていった。


「よっし、乗り込むか」


 ミカゲが伸びをし、剣を取り出す。俺たちも戦闘準備をした。



「よし、始めるぞっ!!!」

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