第67話 寝ぼけたみよちゃん
ゆらり……と立ち上がったみよちゃんを一斉にみんなで見る。ミカゲは殺気を感じたのかすばやく立ちあがって剣を抜く。
みよちゃんがゆっくり目を開けると、燃えるようなルビーの色をした瞳がそこにあった。普段のちょっと抜けて残念な部分は、今のみよちゃんの顔には、なかった。
『この女の血は、非常に弱くて、我が出るのに苦労したぞ……』
地の底から響くような低音ボイス。
……これは、みよちゃんじゃない。
「ま、魔王……」
俺がそう呼びかけると、魔王はニタっと顔を歪ませて笑う。その口からは牙が覗いている。
『ゆっくりと馴染ませ、我がこの身体の主導権を取るのに、今まで時間がかかってしまったが、ついに……』
「ちょ、お前、三代目をどうしたんだよ!?」
ミカゲが剣を構えながら言う。魔王は話している間に紫色のオーラを出し、ゆっくりと変怪していく。
『ふん、ちょっと間の抜けた女か。我が完全体になれば、人格ごと消失しよう』
「み、深夜子ーー!」
大和田さんはプロジェクションマッピング……じゃないな、モンスターへの変形を目の当たりにするのは初めてらしく、腰を抜かしながらもみよちゃんの変身を食い入るように見ていた。だが、手ではジュラルミンケースにきちんとさっきのアイテムをしまい、口では愛する人の名を叫んでいる状態である。ちゃっかりしてんな。
魔王は、みよちゃんの栗色だった髪を黒紫色に染め、服は霧散し、SMの女王様のような姿に変わった。背中にはコウモリの翼のようなものも現れた。
「貴様の目的は、いったいなんだ?」
『我の目的はこの地を取り戻すこと。それ以外の目的はない』
「この地を取り戻すとは?」
『元ある姿に。人間共など、ここの地には要らん』
俺との問答に飽きたのか、それとも背中に翼が生えそろったのか、みよちゃんだった魔王は、居間の窓を開けそこから飛び立とうとしている。
「ノーステップっ!!」
ミカゲが魔王の背の翼へ、すばやく剣を振る。ノーステップは離れた場所に剣の斬撃を放つ剣技である。それは魔王の翼の根本部分にヒットし、さらにアイスソードの効果もあって魔王の翼はピキピキと凍りだす。
『ふ……我は半年で完全体へと変わる。深夜子とやらを助けたいのなら、それまでに我の城までくるのだな。勇者共々、ここの地の人間全員を血祭りにあげてやるわ』
そういうと、魔王は翼を一羽ばたきし氷を落とす。何らダメージがない様子で。
そして、空へと飛び立っていった。
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