第58話 選ばれし廃人
「うちのご先祖様のことを聞いたことがなかったけど、どういう人物なん?」
俺は父さんに単刀直入に聞く。
「そういや、ものすごい物知りの尼さんが、鈴成のご先祖様だって聞いたことがあるなー」
今までそんなことを、一言も言わなかった父さん。
「和哉も就職したし、もう言ってもいいかなって」
結構大ざっぱである。
なんでも、戦国時代が終わってちょっと過ぎた辺りの時代、いろいろな土地を旅していた不思議な力を持つ女性がお告げに従い、山と木と動物しかいなかったここ、田舎村に居を構えたそうだ。
その女性は、当時では考えられないような膨大な知識と、みた事のない不思議なものをたくさん持っていたそうだ。
そして、その女性はそれをうまく利用し、人を集めて村にするというお告げを守り、力を尽くして人を集め、それが現在の田舎村になったということ。
やがて、この地に落ち着いた女性は、たくさんの子供を産んで村の発展に貢献したとのこと。メデタシメデタシ。
……あのさ、それ日本昔話系でしょ。
いやまてよ……この会話すらも田舎ファンタジアのイベントなのかもしれない。
俺が生まれてからいままでこんな話を聞いたことが無いから、実際にはここにそういう伝承はないんじゃないだろうか?
さらに父さんも今は田舎村の中にいるわけだから、田舎ファンタジアのイベント要員の可能性はある。
なので、勇者である俺は――
「……乗るしかあるまい」
「ん? 和哉もビール飲むのかい?」
「ああいや、……うん、まあ飲むか」
最近だめだなー。思考が口にでてくるようになってきたわ。年かな。
「俺さ、勇者になっちゃったんだよ」
ビールをグイッとやって、父さんに告げる。家族には勇者だなんだって今まで言わなかったけど、父さんにポロッと言ってしまった。
まあ、ご先祖さまの話ついでだ。イベントなら先に進むだろうし。
「……先祖からの言い伝えで、鈴成の一族のうち、選ばれし者……つまり勇者が出てくるという話だったが……和哉が選ばれし者だったのか……」
感極まったように、父さんは声を詰まらせる。
あれ? 結構ここ感動的なシーンなの?
俺はいきなり降ってきた勇者うんぬんの話だから、全然感動がないけど!?
そんな俺とは裏腹に、軽く目頭を抑えながら父さんは、
「お、俺だってなぁ、こんなサラリーマンじゃなくて、勇者なんじゃないかって何度も思ったこと、あるんだぞ! ドラ○エなんて全作クリアしてるし! オンラインゲームだって今でも毎日最低5時間はやってるんだぞ!! ……くそう、羨ましいよ和哉!!!」
あとになるにつれ言葉が大きくなって、最後はガハハハと泣き照れ笑いをする父さん。
ほんとは父さん、勇者やりたかったんだろうなー。まあ単身赴任で田舎村にいないですし、無理なんだろうけど。
……ていうかネトゲ勇者だよ、それ。てーかサラリーマンで毎日最低5時間って、ネトゲ廃人でしょ、勇者超えてるよ!
微妙な告白をした俺たちは、それからビールをお互いにかなりハイペースで煽りながら、黙って日本不思議発見を見ていた。
父さんの話から、俺が勇者だったということについては説明がついた、と思う。
……いささか強引な設定ではあるけど。
だが、今の話だけでは、魔王への手がかりがまだ不明だ。
父さんの目尻が乾いたのを見計らって、魔王についての話題を振ることにした。
……なぜなら、男2人で泣き笑いしながら会話する、とか恥ずかしいだろ!
「父さんは魔王の正体、わかってるの?」
再び単刀直入に聞く。腹を探りながら会話するのも面倒だし、さっきのお互いに告白しあった行動が、俺たちを素直にさせたのだった。
「俺はわからんぞ? なぜなら魔王爆誕なとき俺は単身赴任をしていたからだっ!」
ああそうですよね。それは分かりきっていました。
さっきの言い伝えを言ってくれたから、父さんは田舎ファンタジアの全貌がわかるかと、勘違いしてました。
ていうか、俺をうらやましいと思う気持ちをあまり引きずるなよ、父さん。
「だが……言い伝えによると、魔王と呼ばれるものは紫色の悪魔のようなツノが2本、生えているそうだ。そのツノが生えている奴を見つけるしかあるまいな」
ふむ、ツノか。
「まぁ、和哉の仲間同士で魔王についての手がかりを相談するといい」
「わかった、ありがとな父さん」
それから俺たちは互いにビール5本目を開けながら、ボッシュートを見、そのうち眠くなって自然と解散した。
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