第59話 スイーツテロ注意

 喫茶『ハリー・アン』の一番奥まったテーブル席には、ミカゲ、あかねん、タロー、シアン、そして俺が座っていた。



 ここの喫茶店は羽有はねあり地区にあるいおり、という意味でつけたんだよ、とちょび髭のマスターが言っていた。

 漢字で書くと『羽有庵』である。もちろんここでもゴールドは有効で、各自目の前にある注文品は30~50ゴールドという、リーズナブルな値段であった。


 ちなみにホットコーヒーはおかわり自由である。



「で、和哉。役場じゃなくてここでミーティングとか、なにかあるのかよ」


 ミカゲがチョコレートパフェを目の前にし、俺に問いかける。

 いやあのチョコレートパフェを食う金髪土木作業員が、真顔で俺に話しかけるとか結構シュールだよ?


 ……そう思ったけど、話が進まないので、スルーしておく。



「うん、役場じゃ魔王の手下に会話を聞かれてしまう可能性があるから、あえて人のいないここを選んだのと……」


 ここの喫茶店は俺の親戚んちである。信用できるからね。とみんなに話す。


 まあ、実は父さんに魔王に聞かれたくないミーティングをするのなら、羽有庵がいいよと紹介されたのだ。

 マスターは父さんの従兄弟である。



「じゃあ、いよいよ魔王の正体、分かったんですね?」

「じゃ、じゃあ魔王が誰かってのはわかったんですか!?」


 あかねんとタローは目をギラギラさせながら、俺を見る。

 もうさジャンキー怖いよ。というか発言丸かぶりだよ。相性いいなコイツら。


 頼んでるものもいちごショートケーキでおそろいじゃねーか!! ちっ!!!



「マスター、話をすすめろ」


 余計な思考に陥っている俺を察したのか、シアンが促す。

 そのシアンの目の前にあるのはスペシャリテ抹茶あんみつである。

 あんみつに牛乳たっぷりのミルクソフトクリームがぐりぐりと巻いて入れてあり、その脇にあんこと生クリームが添えられていて、黒蜜と抹茶がふわぁっと降り掛かっている、和風人気スイーツである。


 そんな俺の視線に気づいたシアンは、あんこは特別だからな、と言っていた。



「その魔王の正体は、まだわからない。だけど、ここに集まったのは、それぞれから意見を聞いて、魔王を特定するに至るんじゃないか、と思ったんだ」

「そうですね、聞いてポンッと教えてくれるなら、冒険の意味ないですもんね」


 あかねんが頷く。


「わたし、気づいたんですけど、サイクロプス社へ乗り込む前、アパートの様子を伺っているときに、わたしの思考が、魔王の思考と同じような考えだなって思ったんです。だから、あのとき、魔王は女じゃないか、と考えてたんですよね」



 あかねんの意見から、ミーティングが始まった。

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