第47話 女郎蜘蛛

「そんな……面胴小手が効かない!!?」


 ……今まではお面が落ちればそれで、終わっていたはずだ。

 俺は愕然とし硬直してしまった。そんな俺の首元にすばやく女の手がかかる。


「ばっか、この!! ボサッとするな和哉。やられんぞ!!」


 間一髪、ミカゲが剣でその攻撃を弾いてくれた。

 俺に出してきた女の手はするどいハサミのようになっていて、もう少しで俺の首は切断されるところだった。

 俺を狙っていた女の手ががミカゲのアイスソードの効果により、ピキピキと凍って腕の途中からもげ落ちた。


 カランッ!


 女の腕が床に落ち、大理石に響かせる。


 ……軽い音。


 まるで、乾いた木を床に落としたような音。すかさずその腕をあかねんが確認する。


「これ……木です! 人の腕じゃない、人形の腕です!!」


 キリキリキリ……と女郎蜘蛛からはなにかの機械音が聞こえる。つまり、この女郎蜘蛛は精巧に作られた自動で動く人形なんだろう。


 あまりのできの良さに俺たちはこの人形を本物の人間……いやモンスターだと思ってしまっていた。



「……思ったより、力は強くないな」


 人形だとわかると、冷静に女郎蜘蛛の強さを判断するミカゲ。

 人間じゃないから手加減なしでミカゲは攻撃できるため、人形の腕を切り落とし始めるが、ある程度の腕が落ちると、カコンッ! と言う音がして、切り落とした腕の代わりに新しい腕が補給されてしまい、女はダメージを受けていない様子であった。

 ……すごい仕組みの人形だなぁ。


「本で読んだことがあります。からくり人形は、胴体部分に動作する基幹部分があるので、そこを攻撃してください!」


 あかねんが冷静にミカゲへ攻撃のポイントを説明する。

 胸とお腹の間のど真ん中、人間で言うならみぞおちの部分を狙って、ミカゲはアイスソードで突き、凍らせていく。


「よしっ、音がしなくなったぜ」


 動作が止まった女郎蜘蛛。手足はめちゃくちゃだし、ドレスや髪がボロボロで靴と口紅だけ真っ赤なので、動かなくなったもののやっぱりまだちょっとしたホラーだ。


 俺たちはほっとし、女郎蜘蛛がつけていたお面を回収する。

 人形だからモンスターに変身するということはないけど、これがどこに回って誰かがモンスターになっても困るので、ミカゲが作業服のポケットの中に収めておくことにした。



 一瞬、大広間がシン……としたものの、再びキリキリというおぞましい音が、大広間中に大きく響き渡る。


 まさか女郎蜘蛛が再起動したのか!? と思ったけど、女郎蜘蛛はすでにボロボロの雑巾のようになっていて、少しも動いていなかった。


 この音は、あたりの壁にいつの間にか待機していたメイドの姿の人形が大量に動き出してきた音だった。


「くそーー! キリがねぇな!!」


 俺とミカゲで10体ほどメイドを倒すも、あとからあとから湧いてくる人形達。

 こんなときにいもざえもんが居たら、と思ったが、タローはモゴモゴいうばかりでさっぱり使えない。

 ……いいからそのマスクはずせよ!!! と、タローに怒鳴る暇もないほど、俺とミカゲ、あかねんはメイドを倒していく。



「……大丈夫、開放する」


 シアンがそう言って、俺の剣の柄に触れる。

 その瞬間、大広間にあの龍の輝きのような白銀の光が満ちた。


「え……??」


 その光が収まったとき、人間に見まごうばかりだったメイド人形たちは、木目の肌で顔のない人形に姿を変えていた。

 つまり、あれだけの数のモンスター化したものたちを一瞬で元の姿に戻したのだ。



「思い出しました、マスター」



 シアンは俺の目を見て、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る