第46話 森の中のハヤシ
ギギィィィィッ……。
大きな洋館の古くなった玄関の扉を開けると、そこは大きな玄関であった。
玄関から正面に大きな階段があり、いかにも大英貴族的な佇まいの屋敷である。
そうそう、俺たちが小さな頃は、
『本格的イギリス様式の邸宅へ宿泊できる、お気軽なペンション!!』
とかいう意味不明なフレーズで、大々的に宣伝してたのになぁ。
それはここの2代目、つまり洋館を建てた人の息子が買った宝くじが当選し、その息子がなにか事業をしようってことで、洋館なのにペンション(?)になったらしい。
……でも、当時は、それなりに流行ってたのにな。俺はまったく興味がなかったけど。
「まあ、一過性の金じゃ、続くもんも続かねぇわ」
ミカゲの声が洋館内に響く。ミカゲの声のかすかな振動で、フワァっと洋館内にホコリが舞い踊る。
「マスク持ってくればよかったなー。ホコリがすごいよ」
ツー、と俺は窓の縁を指先で撫でてみる。
細かなホコリがすごい。シアンは袖で口を抑えているから、ホコリは吸わないようだし大丈夫だな。
「でも、今の季節はまだ虫がいなそうですよね。夏になったら、わたし嫌ですもん」
あかねん、意外と虫嫌いなのね。
たしかに、ここの森の中は手入れがされていないので、この洋館も夏は虫の住処になってそうだ。
そして、珍しく静かなタローに目線を合わせると、しっかりガスマスクっぽいものを装備していた。
……おいそれ、ホコリ対策か?
「モガモガっ。モガモガモガモガモガモガモガモガス」
いや……何言ってるのかわかりません。
俺たちは玄関から奥の部屋へと入る。大広間だ。
はっきり言って薄暗い大広間もホコリまみれで、誰もいた形跡がなかった。
壁沿いには大きな窓がしつらえてあるけど、外には木が生い茂っていて太陽の光は大広間までは入ってこない。
天井を見ると、大きなシャンデリアは蜘蛛の巣に覆われ、さらにそこにホコリが降り積もっていて、ちょっとしたホラー映画のようであった。
「きたねぇしカビくせぇし、ひと気もなくてよ、ホントにこんなところに中ボスなんているんかよ?」
どこからか出してきた白いタオルを口に巻くミカゲ。あかねんとシアンは白い手ぬぐいを頭に巻いていた。
……なんか大掃除の佇まいだよ? それ。
そのとき、カツン……とハイヒールの音のような音が、大広間の奥からかすかに聞こえた。
その音は徐々に俺たちに近づいてきた。
はっきりと音が聞こえるころには、俺たちの目の前に身長2mほどの大きな女性が現れる。そして、ボロボロのスカートを持ち上げ、ペコリと挨拶し俺たちを見る。
「ヨウコソ、ワガ城ヘ」
丁寧に挨拶をする女性。
ボロボロの、元は白いドレスであったものが今は薄汚れた灰色に染まっている。なのに口紅と靴だけは燃えているような血の色で、さっきまで血を啜っていて新しく染め直したような……眩しくて恐ろしい色だった。
顔は、ウエーブした黒髪が似合っている、かなり整っている彫りの深い美人であったが、ニッコリと笑う姿にはなにか違和感があり、ボロボロの服に真っ赤な口紅と靴で、ホラー映画に出てくるような怖さを持っていた。
そして、頭には蜘蛛の飾り……お面がぶら下がっていた。
「おい、こいつが中ボスかよ」
とミカゲがつぶやく。
その女性はゆっくりとした動作で俺たちに手招きするような仕草をした。
そのとき、
「カカカカカカカカカカ……カカカカカカッ……」
と女性が言ってるのか、身体から音がするのかよくわからない音がして、女性の身体が細かく振動しはじめた。
そして、女性の口がカパッと裂け、ギョロりと変化した目玉で俺たちを睨んだ。
その瞳は白と黒が逆転していて、とても気持ちが悪かった。
「うおお、ホラーかよ!!」
ミカゲがすかさず剣を構える。俺もすこし遅れて剣を構えた。シアンは、その俺のすぐ隣にいる。
「シアン、下がってろ!」
俺が言うも、シアンは「嫌」と一言だけ言う。
その間にも、その女性は変化していた。背中から手が何本か生え、手の何本かは地面につき身体を支えている。
さっきまで立っていた足は、がに股に開いて顔の横まで上がっていて、なにかの昆虫のような様相になった。
「いやぁぁぁぁぁぁ、蜘蛛っぽい……」
あかねんが心底嫌そうに言う。
最低限整えていた髪も今はバサバサで先程の女性だったものが、ものすごく巨大な蜘蛛に変わっている。
変身の途中ではあったが、俺は、まだ姿を変えている最中の女性……というか蜘蛛に対し、
「面ッ! 胴ッ! 小手エェェェッ!!!」
と最大級の面胴小手を、その女……女郎蜘蛛に対して打ちこむ。
カツンと音を立ててお面が落ちる。
よし、決まった。もう終わりだろ。お面取れたし。
「ダメだっ、効かねーぞ! 和哉!!!!」
「えっ……」
女性を見るとお面が外れていたのに、そのあとも姿を変え続け、女は女郎蜘蛛に完全変形していた。
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