第48話 おさけのちから

「……わたしは、龍で、鍵」


 シアンが話す。大広間にシアンの声だけが響いている。


 シアンの役割は、俺が剣を持ったままシアンが剣の柄に触れると、剣に封じられたちから……つまりモンスターを人間に戻す力が開放される、そういう仕組みらしい。

 まだちっこいのに、こんな重要な役割を担うとは大変である。


「戦闘のときは危ないから出来るだけ離れていて欲しいんだけどなぁ」


 と一応希望を出すものの、シアンは顔を横に振る。


「……わたしは攻撃を受けないから。大丈夫」


 そうか、プロジェクションマッピングな扱いなんだろう。リアル人間だけどモンスターさんたちは、シアンに攻撃をしないという暗黙の了解的な設定だろうな。

 そんなことを考えていた俺に、シアンは否定の表情をする。


「わたしは龍だから、もしも攻撃を受けてもここの村ではダメージを受けない」


 シアンは右手を持ち上げてなにやら念じると、右手が白銀の龍……俺が剣を授かったところの鍾乳洞にいた龍の手に変わった。

 すげぇ、高速コスプレだよね! それ。

 シアンのコスプレは、恵奈ちゃんとか咲ちゃんなんかよりもものすごく精巧で、本当に変身したかと見まごうほど、うまいコスプレであったのだが、俺はそれを静かに確認するだけだった。

 なぜならコスプレ云々言い出すとタローがモゴモゴ煩いので、あえて言わないでおくことにしたのだ。


「シアンが龍なのはわかった。……ただやっぱり戦闘時は危ないと思うんだよね」

「平気。わたしがいないとマスターがピンチになる」


 そのあとシアンをどう説得しても納得せずに、戦闘時は俺のそばにいるってことになった。ミカゲも協力してくれるそうだし、前衛は俺とミカゲ、そして付属でシアンということになった。

 シアンは攻撃や防御はしないけど、俺の技を開放するためについているという役割になった。


 ……複雑になってきたけど、まあいっか。戦うのは今までの4人と1きぐるみだし。




「はいはいは~い~~っ!! 強敵は倒しましたぁ~~っと! 一件落着ぅ~~!!勇者さまってスゴいですよねぇ~~!」


 パンパンと拍手をしながら、薄汚れた白衣の男が大広間の奥から歩いてくる。

 髪の毛は白髪交じりで、鼻に引っ掛けた丸い眼鏡は片方にヒビが入っていた。


 その男は痩せた手をおかしいぐらい思いっきり叩き合わせているので、骨と骨をあわせたような気持ち悪い拍手の音が大広間中に響く。

 そして、男のその顔は貼り付けたような営業スマイルである。

 その男には似合ってないから、単に気持ち悪いだけだったが。


「はっはっはぁ~、俺? いきなり誰が入ってきたんだって? そう思ったろぉ~? 勇者さんよ!」


 ……ほんと、誰だよてめえ、って感じだよ。


 さっきの女郎蜘蛛を倒したから、もう中ボスは終わっているはずなのにさ。仮面もさっきミカゲが回収して、作業着のポケットにしまいこんだはずだ。


 だが、俺たちの目の前にいるやたらとテンションを高くした、ひゃっは~~!! とか声を出す男は、どこかおかしい人なんではないか? と思い始めてきた。


 ミカゲは、そんな男を胡乱な目で見ていた。


「あはははは~!! そうだよ!! 俺がこの人形を仕組んだのさぁ~~!!」


 ……ヤバい、イカれちまってる人だわ、と俺がドン引きをしていると、ミカゲがこそっと耳打ちしてきた。


「あいつ、酒に酔ってるだけだぜ」


 そういえば、男の息がものすごく酒臭い。

 俺の隣にいるシアンも男が目の前にいるので、かなり酒臭いのだろう。ものすごい顔で男を睨んでいる。あ、シアンは酒臭いの苦手なのね。


「マスター、あいつ壊す」


 いやいやいや、いくらなんでも壊すのはあかんよ、シアン。

 ……て、壊すってなに!?


 お面すらかぶっていない男が、その酒の勢いで色々な想いをぶちまけるのを、俺たちは黙ってみていた。


 というかドン引きして眺めるだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る