第33話 バジリスク
2階へあがり、可愛らしい飾りのついた白いドアを俺は開ける。
中はやはり真っ暗だったが、暗さに目が慣れてくると部屋の真ん中に、それは居た。
「うわ、ヘビかよ」
ミカゲがそうつぶやく。
咲ちゃんの母親は顔色が土気色になっている。
わかります、ヘビが苦手なんですね。
幸い、ヘビが嫌いって人は咲ちゃんの母親だけだったので、母親には部屋から下がってるようにと指示を出す。
そして、俺たちは改めて咲ちゃんを見る。
「いえ、あれはヘビじゃない。バジリスクよ!!」
とぐろを巻いていたヘビの尾が解かれると、そこから2mぐらいの巨大な鶏が姿を現す。
いち早く気づいたのはあかねんで、モンスターサーチを唱えてその情報を俺たちに教えてくれる。
「レベル48! 特殊能力は石化、毒、地震! 攻撃はヘビの牙と鶏のくちばし、そして爪ですっ!」
仮面すら確認できない、咲ちゃんのコスプレに俺は感嘆していた。
すごいなこれ、撮影とかできちゃうレベルだよ。
「ちっ、レベルがたりてねぇよ! それと俺二日酔いの状態異常になってるから、ひとまず退散すべきだと思うぜ。武器もないし」
「ですね、今のわたしたちじゃ石化されて終わりです」
「あ、ここにフィギュアが落ちてる。ひ、拾っとこうっと」
「やばい、みんな! 石化ブレスが来る! 逃げろっ!!!」
咲ちゃんが石化ブレス攻撃の前動作を始めた。
鶏の胸の部分が大きく開き、こちらを睨んでいる。
俺はそれに気づき、みんなに声をかけ、全員が咲ちゃんの部屋から出たのを確認し、すばやく部屋を出てドアを閉めた。
……あ、あぶなかった――
「あ、あなたっ!!!」
母親はタローの持っていたフィギュアを奪い、胸に抱きしめる。
え、咲ちゃんのおかあさん? そういう趣味?
だが、よく見るとそのフィギュアは30代の男性の姿をしていた。
ていうか石のフィギュアとかって珍しくない?
「あ……すみません。……あの、咲がこうなった経緯を説明しますので、どうぞ居間へ来て下さい」
母親は、そういうと俺たちを1階の居間へ案内する。
庭が荒れ果ててなければ、いい景色なのになぁ、ここの居間。
コーヒーをごちそうになりながら、咲ちゃんの母親に経緯を説明してもらう。
入学まで2ヶ月となった咲ちゃんは、両親と揃って入学式に出ることをものすごく楽しみにしていたらしい。
そんなとき、父親が浮気をしていることが発覚する。
激しい両親の喧嘩を見て、一生懸命「パパ! ごめんなさいは!?」と両親を仲直りさせるように取り持つ、咲ちゃん。
そのとき村全体への呪いがかかったらしい。
いつまでも謝らない父親を石のフィギュアに変え、母親に抱きつこうとした。
が、鶏とヘビの化け物に姿を変えていた咲ちゃんは、母親に拒絶されショックを受け部屋に篭っていた。
という経緯らしい。
なかなかにヘビーな話だ。蛇であるゆえに。
……自分で言っといてなんだが、寒いな。
「父親、ハンパな奴だな。そーゆー奴は仕事も生半可なんだよ」
ムッとした顔でミカゲが言う。
だよねーー君は恵奈ちゃん一途ですものねーー。
「咲ちゃんのお母さん、俺たちには浮気うんぬんは解決できませんが、咲ちゃんを元の姿に戻すことは可能です。ただ少し準備が必要なので、待ってもらえますか?」
母親の痩せ具合や顔色からみても、早くここは解決しなければいけない、と思った。
そして、あの咲ちゃんの変身具合からすると、かなり強敵なので俺たちが失敗してはいけない。
「わかりました。待ちます。それであの、この石像は元に戻せないのでしょうか?」
咲ちゃんの母親は、手にもつフィギュア……いや、旦那さんの石像を差し出す。
が、あかねんは首を横に降った。
「ごめんなさい。わたしは石化を解く呪文は持っていないんです。そして、その石化は多分、咲ちゃんが治さない限り、解けないと思います」
あかねんの言葉を聞いて、咲ちゃんの母親は下を向いて涙を落としている。
しばらくみんなで、母親が落ち着くのを待ち、咲ちゃんちをお暇することにした。
……今の俺たちのレベルでは、バジリスクは倒せない。
だから、レベル上げと戦闘時の策を考えることにした。
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