前のエピソード――第2話始まりの集落

　実家に戻ってから１週間だけのニート生活。

　十分に羽根を伸ばしてのんびりした、とはいえない忙しさだった。仕事用のスーツを買いに行ったり、母さん一人では農作業が大変そうだったので、ちょこちょこ手伝ったり、姉ちゃんちに行ってきて「俺は実家に帰ってきたぞー」の挨拶をしたりと、ほぼ毎日なにかしらの用事があった。

　そしてあっという間の入社式。ここの役場に地域協力隊として今回入ったのは、３人。役場職員ではない地域協力隊員なので、大々的な入社式というのはなく、役場の会議室の一室で簡素に入社式は行われた。俺たち３人のほかに村長、副村長、あとは配属先の部署の課長、それと総務の人たちがちょっとだけというものであった。

「我々の村の運命は、君たちにかかっている」

　と大げさすぎる村長の挨拶があったのだが、毎回入社する人に言ってるんだろうなーとあっさり流した。これが今考えれば、大きな間違いだったのだが。

　入社式が終わってから、俺たち地域協力隊員は、一週間ほど研修を行うらしい。村民への接し方や、どのようなことに留意して行動するなどの、一般的な教育から、電話の出方や、役場内の部署の説明などを研修するそうだ。

　その研修の準備をすると言って、俺たち３人を残して職員は全員部屋から出てしまった。せっかくなのでその時間を使い、それぞれに自己紹介をすることになった。

「俺は鈴成和哉といいます。都会大学を卒業して、ここに来ました。身長は１７８センチ。体重は７０キロ。高校時代は剣道をやっていました。彼女募集中です」

　こういうときは、いち早く自己紹介をしてしまうに越したことはないと、俺は思っている。別段リア充ではないけど、恥ずかしがったらグダグダになるから、色々なことを最初に言い切るほうがいいし、主導権を握れるというかそんな気持ちもある。それに、緊張して自分の自己紹介タイムを待つよりも、のんびりと残りの２人の自己紹介を見るほうがいいからな。

「え、えと…。三輪あかねと申します。隣市立高校を卒業して、ここに就職しました。身長は１５５ｃｍ。た、体重は…秘密です。趣味は読書です。彼氏は…えとその…いません」

　すこし茶髪でボブカットのメガネ女子。おとなしそう。図書館に置いてあるような本を読むのが好きなんだろうな。腕とか細いし小さくて体力とかもなさそうだし、女の子って感じ。少し地味な女子だけど。

　ぼんやりと、わりと失礼なことを考えてたときに３人目が挨拶した。

「ぼ、僕は青柳太郎です。都会有名大学を出て、に、二年ほど家事手伝いをしていました。親の計らいでここに就職することになりました。か、彼女というか嫁なら５人い、います」

　あー、そうか。俺の友達系の人か。都会有名大学ってことは勉強はできるんだろうなぁ。でも弛みきったお腹と真っ白い肌で、体力はなさそうなのには気づいていた。なぜなら、ここの会議室は２階にあり、階段の途中、青柳さんはふぅふぅと息切れをしていたのだ。身長は三輪さんよりちょっと高いぐらいかな？見るからに机での仕事しかやりたくない！という主張を身体全体でしているようだ。

　それに家事手伝いって男なのに、なんでだよ。ただのニートだったんだろぉぉ？と思ったけど、ここでそれを言ってしまうとかなり失礼な人になってしまうので、俺はぐっと我慢した。