　最初に違和感を感じたのは、実家に向かう途中にあるコンビニに寄ったときだった。

「いらっしゃいませ～！」

　店員さんの対応は普通だったのだが、普通のコンビニの売り物の他に、真っ直ぐな竹をナナメに切っただけの竹槍っぽいものや、木で出来た鍋のフタみたいな妙なものが販売品として置いてあったのだ。

　陳列棚の値段のところには、手書きで『たけのヤリ　１０Ｇ』と書いてある。それを物珍しく見ていた俺の前に店員さんがいきなり現れ、そそくさと、

「これは、まだ準備中ですので、すみません」

　と言いながらその妙なアイテムを片付けていた。

　田舎のコンビニだし、どうせオーナーの孫あたりが「おじいちゃん、ちょっと置かせて！」とか言いながらやったに違いない。そんなクオリティの低さであった。

　なのであまり疑問に思わずに、そのコンビニで普通にスナック菓子とジュースを買い込んで俺は実家に帰った。

「ただいまー」

　ガラッと実家の玄関戸を開ける。

　ふわっと香る実家の香り。やっぱ落ち着くわー。

「ああ、おかえり」

　奥から母さんが出て来る。農作業と主婦の兼業主婦なので、わりと時間は自由に取れる。今日は俺があらかじめ電話で帰る、と伝えていたので、農作業に出かけずに家にいたらしい。

　ちなみに父さんは、飛行機で行く距離のところへ単身赴任中だ。姉ちゃんも２年前までは実家に住んでいたのだが、今は結婚して別に暮らしている。隣の市だから、車で２０分も走れば姉ちゃんに会えるが、今は止めておくことにした。なぜなら姪っ子が６ヶ月になったばかりなので、たぶん姉ちゃんてんてこ舞いだし。遊びに行ったら、絶対こき使われるだろう。なので、現在の家には母さんと猫のミーシャ、それと今日から俺も加わって２人と１匹暮らしになる予定だ。

「わたしは、車でお前を送ってる暇はないからね」

　実家に帰ってきて、昼飯を食いながら仕事にいく日はいつだとかの報告をする。３月なのにまだ肌寒いので、こたつにあたりながらだ。そして、通勤手段の話をしようとしたところで、母さんからピシャリと牽制を受けてしまった。

「そら自分で自転車で通うよ。もう社会人なんだし、いつまでも親に甘えてられないだろ」

　口の中の煮物をゴクンと飲み込んで、俺は言う。その言葉がヤブヘビだったらしく、母さんは実家に住む分として、給料のいくばくかを生活費として手渡す約束をさせられた。まあそれも当たり前だからしょうがないし、まったく出さないっていう気持ちはなかったから別にいいけど。

　そのあとは自分の部屋を掃除して、持ってきた荷物を解いたりと、あれこれ忙しかった。母さんは昼飯を食べた後に「畑を見てくる」といってさっさと行ってしまった。ミーシャはこたつの中でゴロゴロしていたが、人が居なくなってこたつが消されると寒くなったのか、俺の部屋でくつろいでいた。