第3話 序章3

「君たちも知っての通り、7年前、宵闇の手により突如として現れた、毀攻戦鬼によって、我々の領土は、。全世界の5割に減ってしまった。そして、私たち白夜の住人の2割は殺されてしまった・・・」

前にいる教官や、みんなは俯いた。

「だが、そんな時代はもう終わりを告げた!四年前に設立され、君たちが今から正式入隊する、対毀攻戦鬼撲滅機関、白銀(しろがね)の手によって!」

その話しを聞きながら、一年前の事を僕は思い出していた・・・

一年前、その頃僕は、いわば浮浪児だった。故郷と家族を宵闇の手により失い、残っていたのは、強い復讐心だった・・・そして、そんな僕に、天命とも思われる出来事が起こった。1月の寒空に包まれた街の中一枚の毛布にくるまり、座っていると、地響きのような吠え声と、警告音が聞こえて来た。そう、毀攻戦鬼である。僕は無意識に、そこに転がっていた、石を拾い上げ、投げた。だが、その石は傷一つ付けることが許されないように、跳ね返った。そして、それを目障りと思ったのか、こちらに手を伸ばしてきた。このままでは逃れられない。つまり、死ぬ。そう思った瞬間、その腕が一瞬にして宙に舞った。毀攻戦鬼は苦しむ様子もなく、あたりを見回した。直後、怒号のような、声が飛んできた。

「作戦開始!」

その言葉の直後、僕を襲おうとした毀攻戦鬼が一瞬にして爆発してしまった。その爆発の衝撃で、僕は気絶してしまった。

気が付くと、僕は暖かいベッドの上で寝ていた。起き上がると、その橫の椅子に座っていた人が声をかけてきた。

「大丈夫かい?」

パジャマを身につけており、本をもっていた。顔は、いかにも優しそうな外見で、細見である。そして、そのままの勢いで、状況説明と自己紹介を始めた。

「初めまして、僕の名前は、辻井健一郎。白銀の隊員だよ。ここは、僕の部屋。ちゃんと宿泊許可は取ってるから心配しないでね。」そういうと、笑顔を向けてきた。綺麗な笑顔である。自分が女の子だったら間違いなく惚れていただろう。

「君の名前は?」そう聞かれた。

「シュウ・・・」

僕は、自分でも驚くほどの弱々しい声で応じた。すると、辻井さんは首を傾げた。

「えっと・・・名字は?」

僕は、その言葉の意味がよく分からなかった。なにせ、僕の住んでいた村には、「ミョウジ」と、よばれる文化が無かったのである。だから、その事を伝えると、辻井さんは驚いたような顔をして、こちらを見ていった。

「君、もしかして、[始まりの集落]の人?!」

この名前を聞くのも何回目であろうか・・・。始まりの集落とは、七年前、毀攻戦鬼の大進行時に、最初に突破された地域の総称で、そこに住んでいた元住人達はスパイだの何だのと虐げられる場合がほとんどである。だが、辻井さんは、にっこりと笑い、「大変だったね」と、優しく頭を撫でてくれた。その瞬間、僕は目から、自然に涙が出てきた。すると、辻井さんが衝撃の一言を発した。

「君は、自分の失った物を取り戻したいとは思わないかい?」

僕は、涙であふれている顔を向けた。そして、そのまま辻井さんは言葉を続けた。

「最近の研究で分かったんだけど、毀攻戦鬼の中には、小型の転送機が入っていて喰われた人間はそこから、宵闇に運ばれることが分かったんだ。つまり、君の家族や、友達が生きているかもしれないって事。」

その瞬間、僕の中に、何かが芽生えた。そして、もう一度さっきの言葉を言った。

「君は、自分の失った物を取り戻したいとは思わないかい?」

この時の僕の選択肢は一つしかなかった。

「はいっ!!!」

僕は泣きながら返事をした。これが、僕、上野秋の誕生した瞬間だ。

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