時間が消える謎
「嗚呼 闇と同じ匂いがする」
僕は布団に向かってつぶやく。現実を直視できない目が、おおよそ人とは妄想の中に生きることしかできないのかもしれないという絶望。
二年後、僕は体から動物の感覚を感じた。朝目覚め、異様に透き通った空気の中目覚める。本棚を開いてドストエフスキーを読む。こんなことをしても異性へのアピールでしかないのかもしれないと思いつつも、でもきっとどこかへ向かうことが出来ると信じていた。
「青い革命戦士」
とこの本を名付けよう。僕は自分で作った、原稿用紙数100枚におよぶ長編小説の表紙にマジックで名前を書いた。
文化祭の時も、部活の時も、ただ無意味なことをしていたのかもしれない。
24時間前は今よりずっとひどい世界だった。
誰に言うあてもなく、僕は枕に問いかける。誰かがそれを聞いている。
彼女が、つがいがセックスをしている。僕は縛られた彼女を見ている。彼女との未来を推測しているつもりがおおよそ彼女の存在というものを脳に焼き付けているに過ぎないのかもしれない。
目の前を通るのはバイクの音。周りの人の奇妙さは疑問。
妄想の中で僕は彼女に話しかける。
「家は? 家族? 子供? お金? セックス? 女の子?」
彼女は縄で縛られたまま、同級生に遊ばれていた。いったい何が僕の心をそんなところへ導かせるなんて別に内省もしていない。
ただ静かな夜に君と体を触れ合いたくて、寂しさが人間の欲であったとしてもだ。
僕は静かな夜を夢想する。
食卓に並ぶのはシチューだったり、鰯の酢漬けだったり、フランスパンだったりした。
窯で一生懸命二人で焼いたやつを分け合って食べる。いちいち感情に気を使っていた日々だった。ごはんが取られるのが怖いなんてどうかしている。
俺の心の声が想像が伝わるなんてどうかしている。
でも妄想の世界の中で、政府も国も何もかも存在価値を失っていた。ただあるのはゆるい法律だ。
静かに暮らす。川の流れを見ながら。こうしていると結局僕は誰かから何かを奪うことしかできないのではないかとすら感じる。だけれど、川も森も木もおおよそ無限にあるのだと、毎日こうして炭を作り、野菜と魚を買い、そして薪を燃やしてご飯を作る。
もちろんオール電化のハイテク機器はあるのだけれど、ほかにすることも見つからない。
週に何回か魚だとかいのししだとか野菜を採りにいく。罠でイノシシをしとめる。
夢も希望もない。静かなせかいで、僕たちはただ時が過ぎてゆくのを青い世界が消えていくのを見ていた。
妄想から目覚めると、僕は小説を書いている。一戸建てのリビングの部屋で。そこには家族がいたらいいな。
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