第33話霧中の少年(ひつじ)は狭間を駆ける⑤

「凄ぇ・・・。」


思わず、美しく揺らめく蒼銀色の光に一瞬目を奪われる光流。


そんな光流の目線の先で蒼い光は更にその勢いを増していき、遂には男性の全身を包み込んだ。


「よし、準備完了っと」


蒼銀の光に包まれたまま、至って軽い調子でそう言うと男性は曲剣を改めて構え直す。


曲剣や男性の体から立ち上った蒼銀色の光が周囲の空気に混じり、溶け込んでいく。


すると、光流が辺りの異変に気付いた。


「・・・空気が、さっきより冷たくなってる・・・?」


そうーー明らかに先程と比べると周りの気温が下がっている。


時節は12月後半、謂わば真冬の早朝だ。


寒くとも何ら不思議ではない。


しかし、この数分での、寒い中での更なる急激な気温の低下は幾ら何でも不自然だ。


こんなに短時間で気温が激変すること等、雪が降ったり、吹雪になる等何らかの天候の変化が起きない限り有り得ない。


だが、薄紫色の半透明の壁に覆われたままの世界の天気は雲一つない、陽の光も眩しい晴天のままで。


「何で、こんな急に・・・?」


光流の腕にしがみつきながら、やはり此方も気温の低下を感じているらしく小さく体を震わせる華恵。


「僕にも、さっぱり・・・」


答えながら、光流はスクールバッグから替えのスクールセーターを取り出すと華恵の背にふわりとかけてやる。


また、楓もかなり寒いらしく座り込んだまま先程より青ざめた顔色で自分の体を両腕で抱きしめる様にして震えていた。


光流はやはり、スクールバッグから今日の体育用に準備しておいたジャージを取り出すと、楓の背に羽織らせてやる。


そうして、二人が大丈夫そうなのを確認すると、光流は気温の低下の原因を確認するかの様に辺りを見回す。


すると、


「冷たっ・・・!」


何か、とてつもなく冷たいものが光流の頬に触れた。


思わず光流が自分の頬に手をやり、確かめてみると


「氷・・・・・?」


そう、それは小さな氷の粒だった。


(何処から来たんだ・・・?)


再度周囲を見渡す光流。


そんな光流の目に、先程より一層深い蒼の光に曲剣と全身を染めた男性の姿が映る。


そして、その体や剣の先から、先程より勢いを増し、まるで火花の様に舞い飛ぶ蒼銀色の光。


その光が、光流の元まで運ばれ、その掌に触れる。


「・・・これか・・・・・」


如何なら、男性の宿す蒼銀色の光こそが、細かな氷の粒子で出来たものであり、この気温の低下も彼が起こしたものらしい。


男性は、無数の氷の粒の含まれた光を纏いながら、何処か楽しんでいる様にすら感じられる口調で光流に話し掛ける。


「あ、そう言えば何処まで話したっけ?偽神、のことは話したし。他は・・・ああ、そうそう。こう言う、偽神から狙われた人間を護るのが俺達『忌屍使者デッドストーカー』なんだよ」

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