Ⅱ-Ⅱ


 しかしここから先は、その流れを変えなければならない。無暗に敵の拠点へ突っ込んだのでは、一方的にやられてしまうとメラネオスが言っていた。


 カイゼルもそれは承知しているんだろう。神妙そうな面持ちで、思案に喉を唸らせている。


「ラダイモンの守りについては、ヒュロス殿も知っての通り。夜間の接近がもっとも確実と思われるが……」


「何か問題でも?」


「ラダイモンに展開されている矢は、都市の市民を狙うことも出来る。……ワシらとの戦闘が確定した途端、連中は即座に大量の人質を用意できるのだ」


「卑劣な連中ですねえ……!」


「ワシもそう思う。そこで、だ」


 カイゼルがテーブルの上に出したのは、地図だった。

 書かれているのは都市の周辺。俺達がいる地下都市の場所も記されている。


 点々と記されている円は、神々の加護を受けている神域のことだろう。ヘパイストス達がいる場所にも、ちょうどその円が記されている。


「さてメラネオス殿、ここから先は頼む。貴殿には何か、考えがあるようにみえるのでな」


「はは、私もそこまでの策略家ではないが……ここは単純に、敵の補給路を断つべきだと提案したい」


「補給路?」


 頷くメラネオスは、カイゼルから地図を受け取るとその北側を指差した。


「こちらの方面には帝国の首都や、有力な都市がいくつも存在している。その辺りは土地も豊かでね、ラダイモンは彼らから支援を受けている。オレステスが統治者になっても、そこは変わっていないだろう」


「周りが干乾びてる土地ですもんね。でもだからこそ、オレステスに負担をかけることが出来る、と」


「そうだ。私が収めていた頃は王国からの支援もあったが、今のラダイモンは完全に帝国側、関係は断っているだろう。……まあ、この方法では時間がかかってしまうのが問題だな」


「む、それは困ります」


 一秒でも早く、ヘルミオネと再会すること。

 それが俺の最善である以上、出来るだけ時間のかかる作戦は取りたくない。メラネオスだって同じ気持ち――だとは思う。


 期待を込めて義父に視線を向けると、彼は無言で頷いてみせた。


「彼らにとって、支援物資は喉から手が出るほど欲しい代物だ。なので、その輸送隊を私達は襲い、彼らに化けて城に潜入、オレステスを討つ」


「おおっ、名案じゃな! いやはや、さすがは神々の知恵を持つ英雄よ!」


 喜びをそのまま表現して、跳ね上がるように腰を上げる老将。……そこまで絶賛する策には聞こえないのだが、カイゼルなりの気遣いだったりするんだろうか?


 失礼ながら苦笑を浮かべて、俺はもう一度メラネオスの言葉に耳を傾ける。

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