Ⅱ-Ⅰ
辿り着いたのは、石を削って造られただけの建物だった。
もちろん、この辺りでは珍しくない。珍しいのはその大きさぐらいで、内装も無個性なぐらいに質素だった。
もし建物の主が意図的に作った光景なら、メラネオスとはさぞ気が合うことだろう。質実剛健が彼の在り方なのだから。
「こっちよ」
ブリセイスに案内されるのは二階。白い階段を上った先にある、開きっ放しの扉だった。
奥からは親しげな話し声が聞こえてくる。人数は二人分。片方がメラネオスで、もう片方が誰なのかは、まあ言うまでもあるまい。
硬い床の感触を覚えながら、俺とブリセイスは目的の部屋へと上がっていく。
「メラネオス様、カイゼル様、お連れしました」
「おおっ!」
そう言うなり、視線を向ける二人の男。
部屋の中央には、大きな円卓状のテーブルが鎮座している。彼らはその左右を挟むように座り、そして今立ち上がっていた。
右にいる細めのメラネオスに対して、反対側にいる男性は大柄である。誰もが巨漢と表現しておかしくない体格の持ち主た。
立派な顎鬚を蓄えて、歴戦の勇士という像をそのまま形にしたような男。
「お待ちしておりましたぞ、ヒュロス殿! ワシはカイゼル。この地に住まう民を率いる老人にございます!」
「ああ、これはどうも」
差し出された手は。中に岩でも詰め込んでいるんじゃないかと思うぐらい硬そうだった。
老人と称されるような人間の手ではない。確かにカイゼルは高齢のようだが、まだまだ武器を手に暴れられそうな雰囲気だ。
筋肉の量だって、俺が若返る前に匹敵している。これは心強い味方となりそうだ。
「噂は聞いておりますぞ。なんでも、猛将と呼ばれるほどの実力者であったとか。――ワシもこの世界に来た英雄達を何人も見ておりますが、貴殿はその中でも有数の実力者に見える」
「そ、そんなに褒めないで下さいよ。俺、調子にノリやすいんで」
「いやいや、ノって下さって結構! 強者が強者として振る舞う以上、何の問題もありますまい?」
呵々大笑しながら、カイゼルは俺を円卓の椅子へと座らせた。
ブリセイスの方は一礼し、扉を閉めてから退出する。軍議のため、ここからは女子厳禁と決まっているんだろう。
俺個人としては彼女がいても一向に構わないんだが、空気を読むことも少しは大切だ。
そもそも男達にとって、女性は守らなければならない存在。領分である戦に首を突っ込ませるなど、彼女達を巻き込むのも同義である。
だからせめて、快勝を。
完膚無きにまで帝国を叩きのめして、ブリセイスに心配の必要がないことを教えなければ。
「ではヒュロス殿、さっそくラダイモン攻略の策を練りたいと思う。あそこには貴殿の妻が幽閉されているとも聞くし、ワシは明日にでも行動を起こすべきだと主張したい」
「もちろんですよ、我慢するのは性に合いませんから。メラネオスさんもでしょう?」
「無論だとも」
血の気が多い男達による、血の気が多い決定だった。
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