Ⅱ-Ⅳ

「オレステスは遠矢の神の加護を使い、都市上空に毒矢を浮遊させている。この範囲がかなり広い。無理に進もうとすれば、ハチの巣になるぞ」


「え、じゃあメラネオスさんはどうやって……」


「監視の目は人間が行っていてね。夜間になれば、自然と緩くなるものさ」


 じゃあ夜を待って、と行きたいところだが、その間にこちらを目撃した情報が届いてしまうだろう。先制するのは困難でしかない。


 いっそ強行突破したいところだが、それでは市民が危険に晒される。ヘルミオネだって、無事だとは言い切れない。


 不満は残るが、今は待つのが最善だ。


「……代案があるなら聞かせてください」


「ええ、もちろんよ。あ、メラネオス様はどうですか?」


「私からは今のところ無いよ。ブリセイスが先に――」


 直後のこと。

 ガラスが粉砕されるような音が、四方八方から聞こえてきた。


「これは――」


「……まずい、太陽神の矢で境界が破壊された音だ。帝国の連中が、私達の居場所に感付いている」


「ほほう」


 瞬間的に、闘志へと火がついた。

 恐らくそれなりの戦力が送り込まれてくる筈。先ほど戦った、蛇人兵ピュトンもいるに違いない。


 相手にとって、不足はなしだ。


「じゃ、軽く蹴散らしてきますわ! メラネオスさんとブリセイスさんは先に逃げててください!」


「ひゅ、ヒュロス君!? 貴方何を言って――」


 忠告は途中で遮られる。メラネオスだ。

 敵の気配が徐々に強くなる中、彼は周囲を警戒しつつ馬に跨る。


「彼の実力なら心配は無用だ。……それに私には武器がない。万が一追いつかれでもすれば、そこで終りだ」


「……そうですね」


 不満は残っていると思われるが、ブリセイスは確かに首肯した。

 たどたどしく手綱を握ると、彼女はもう一度視線を寄越してくる。


「気をつけるのよ、ヒュロス君。お姉さんと約束して」


「ええ、手抜きをしないように気をつけます」


「あのねえ……」


 呆れられてしまったが、言葉の意味自体は変わっていないと思う。


 常に全力で、加減はせず。

 苛烈さを持って勝負に当たるのは、俺にとって礼儀ですらある。加減するぐらいなら自ら首を差し出してもいい。


「ふ――」


 上級には、飛来する無数の矢。


「猛れ!」


 力を解放する神馬紅槍ラケラ・ケイローン

 空を両断する紅い刃の出現が、戦端を開始する合図だった。

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