Ⅲ-Ⅰ
群がる兵士の数だけ、悲鳴が拡散していく。
鎧が砕ける快音は途切れることを知らない。槍が、剣が、風を切り裂く光景も見飽きるぐらいに繰り返されている。
だが。
「おらぁっ!」
「ぐ……!」
誰一人、神速を捉えるには至らなかった。
興醒めもいいところだ。彼と同程度の戦力が、ここに湧いてくると思っていたのに。
「ま、加減はしねえぞ! ありがたく思え!」
一陣の風となって、片っ端から粉砕する。
相当数の兵力が送り込まれているようで、視界の奥には未だに増援がいた。新しい
それだけ彼らにとって、メラネオスは排除するべき存在なんだろう。あるいは俺一人につぎ込んでいるのか。
どちらにせよ、変わり映えしない芸は見ているだけでも退屈である。
ヘパイストスの籠手を発動させ、俺は戦場の掌握を開始した。
頭上には再び、アポロンのものと思わしき矢の群。男性を即死させることで有名なソレは、壁と見紛うほどの密度で飛来した。
「少しは他の芸が出来るんだな……!」
不意に浮かぶオレステスの顔。ありったけの侮蔑を込めながら、籠手を装備している手に力が籠る。
直後だった。
白銀の矢が、一本残らず静止したのは。
ヘパイストスの籠手が有する、静止の加護。距離があろうと、その能力は問題なく発動している。
とはいえ完全に止まったわけではない。それぞれの矢は、拘束から抜け出そうと必死にもがいていた。
ならその希望ごと、粉砕してご覧に入れよう。
「猛ろ……!」
静止していた空間が、
矢は一本も残っていない。その欠片が地上に降り注ぐのみで、太陽神の威光もとろも砕け散った後だった。
敵方からは絶望と落胆の空気。勝てるわけがない、と口にしている兵までいる。
折れ掛けの戦意。あと一撃叩き込めば、自然と連中は退却するだろう。
「ふ――!」
そうしてやった。
第二形態の紅槍を叩きつけたことで突風が巻き起こり、人と蛇を吹き飛ばしていく。
堪えることさえ困難な暴風。地中深くまで根を下ろした巨木だろうと、圧倒的な暴力の前に従う他なかった。
土塊が舞い、木々が剥がされる。
神の恵みを受ける土地で何をやっているんだと反省したくなるが、手加減をする気はまったくない。
流れは既にこちらの手中。仲間達の安全を確保するためにも、ここで決着をつけてやる……!
「これで――」
神域の外と区別がつかないほど、荒らされたその領域。
すなわち、猛将王の鉄槌なり。
「終り――」
違う。
乱れに乱れた大気の中、一直線に突っ走ってくる何かがある。まだ視界には入っていないが、これは――
「っ!」
目視さえ許さない速度で、一本の矢が森を奔った。
『血脈の俊足』を発動させ、命中する直前に身体を捻る。
母譲りの赤髪をさらう矢の一撃。命中には至らずとも、その精度と威力は一瞬のうちに理解した。
間違いなく、遠矢の神・アポロンの加護を受けている。
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