第3話
1度だけ国語辞典で『愛』と調べたことがある。
愛…対象をかけがえのないものと認め、それに引き付けられる心の動き。
と書かれていた。
小さな僕の感想は、はぁ?なんだそれ。と馬鹿にしたものだった。
そのまま、愛なんてものを知らずに高校生になった。
僕が愛なんて訳が分からないと言ったものを知るのは、この時だった。
高校1年生。
その年は、春なのにも関わらず風が強く桜の花びらが早々に散ってしまった。
道路には沢山の桜の花びらでピンク色の道ができていた。
僕は、その道の端を通り登校していた。
僕の通う学校は校則も緩く、頭もそこそこだった。
僕はそんな学校で真ん中ぐらい。
特に真面目な訳ではない。
どこにでも居るような、なんてことのない生徒。
そんな平凡な毎日を過ごしていた。
愛なんて知らない平凡な毎日を…
ザワザワと騒がしい教室。
男子生徒が走り回る廊下。
部活と体育以外では全く使われないグラウンド。
フェンスに囲まれた屋上。
誰も使わないが無駄に手入れされた中庭。
いつも通りの学校だった。
「あっ!ツッキーおはよう!」
と挨拶してきたのは、クラスのムードメーカーの今井くん。
そんな彼に、僕は小さく挨拶を返した。
教室に入ると、みんなが駆け寄ってくる。
僕は作り笑いでその場を切り抜け、席についた。
春にしては強すぎる風が、桜を踊らせていた。
ホームルームの始まりとともに入ってきた先生。
太っていてみんなからは、狸と呼ばれている。
一応、この学校で人気の高い先生だ。
狸先生は滑舌が悪く、言葉が聞き取りにくい。
だが、このクラスでは1つの笑いだ。
「ねータヌちゃん知ってる?
舌を大きく動かしたら、滑舌治るらしーよ!」
と先生のことを狸と呼び始めた張本人の今井くん。
先生は本当ですか!と食いついている。
たわいもない話をしてホームルームは終わった。
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