閑話・ヴェルカティア装飾店のお姉さん
俺は高校二年の一般男子・
魔王討伐の為に召喚され、
俺はその功績を認められエリスと言う彼女(?)を手に入れた。
「ほっほ、勇者よ遊びに来たぞぉー……あふんっ」
そして自室でくつろぐ中、今日も部屋に国王サマがいらっしゃった。
彼は笑顔でいつものようにエリスの椅子へ座る。
するとこれまた豪快な音を奏でつつ、椅子の足が四散した。
「だ、大丈夫ですか国王様、お怪我はありませんか!?」
「ほっほっほ、案ずるなエリスよ問題無いのじゃ。
どうやら椅子がワシの高貴さに耐えきれんかったようじゃのう」
国王サマ、それ高貴さとかじゃなくてただ重いだけかと……。
しかしこれで何代のエリスお気に入りの椅子が逝ってしまったのだろうか。
今となってはそれを思い出すのも、難しい……。
10を超える椅子を破壊され、流石の俺もどうかすべきだと考えてしまう。
確かに国王は大らかで、何があっても笑顔で許してくれる。
でもだからと言って、こう毎度毎度椅子を破壊されるのも困り物。
「うん、壊れない椅子作るか」
そしてそう決断すると城下町へ出る事にした。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「ってな訳で、壊れない椅子を作りたいんですよね」
エリスの案内の元、いつも椅子を買っている家具屋へ向かった。
「はっはっはっは!
また国王様に壊されたんかい勇者の兄ちゃん!
こっちとすりゃ、毎度壊してもらえる方が金になっから有難いんだけどなー」
「あのですねぇ、壊される身にもなって下さいよ?」
事情を説明するや否や、直球でそんな事を言われる。
そりゃまそっちは商売なるから良いだろうケドさぁ、こっちは大変なんだぞ。
すると店のおいちゃんは笑いながら悪い悪いと詫び、
「まぁ特注で椅子を作っても良いが、そうなってくると普通の材料じゃ意味ないだろうな」
「となると……?」
「それこそ高級鉱石の一つ、ホワイトディープオリハルコンでも使わないとダメだろう」
難しい顔でそう返され、俺はその単語を前に固まった。
ホワイト……ディープ―――オリハルコン?
何だそのアルティメットにオメガ足したみたいな、頭悪そうなネーミング!
白いのに深いってどう言う意味なの。
いやま、そう言うの嫌いじゃないケドさ!
「確かにホワイトディープオリハルコンがあれば、強度に申し分ありませんね」
「それってそんなに凄いの……?」
「ホワイトディープオリハルコンは高い耐久性を持ち、使用者が受ける衝撃を緩和する力を持ってます。
ハルヒトさんが身に付けてる守りの腕輪などは、ホワイトディープオリハルコン製ですね」
わぉ。
常日頃愛用してた腕輪が、まさかのホワイトディープオリハルコン製でしたか。
確かに衝撃緩和で言えば申し分ない。
思い返せばドラゴン戦や魔王戦でどうにかなったのも、腕輪のお陰とも言える。
「しかし椅子に使うほどの量ってなると、今のウチにゃねぇしなぁ」
「もしかして鉱石取ってこいって流れっすか?
それなら任せて下さいよ!」
おいちゃんの言葉に思わずはしゃいでしまう。
鉱石と言えば洞窟、そして洞窟と言えばダンジョンだ。
考えたらこの世界に来て、ダンジョンって行った事無いんだよなぁ。
俺、すっげーワクワクしてきたゾ。
「いや、ホワイトディープオリハルコンならとある店に行きゃすぐ手に入る」
と、意気込みもすぐに消沈する言葉を向けられた。
なんだよぉ折角やる気だったのにさぁ……。
「とは言え、あの人から買い付けるにゃちょっとなぁ……うーぬ」
「何か問題があるんですか?」
そう尋ねると、待ってましたと言わんばかりの笑顔を向けられる。
「ああそうだな!
勇者の兄ちゃんならきっと大丈夫かもしんねぇな!
ヴェルカティア装飾店って店なんだけどよ、代わりに頼めっか?」
断る間も無く、ゴリ押しでそんな事を頼まれてしまう。
そして俺とエリスはおいちゃんの言う、ヴェルカティア装飾店へ向かう事となった。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「で、ここが例の店って訳か。
パッと見、おいさんの言うような変な感じしないが……」
エリスが店の場所を知っていると言う事だったので、案内して貰った。
場所は城下町の大通りを少し入った場所で、隠れた名店的なオーラが漂う。
「うーん、普通じゃね?
何が変わってて厄介なんだ」
その言葉にエリスが苦笑し、
「店主さんのティアさんはお喋りが好きでして、少しお話が長いんですよね」
そんな情報をくれる。
だから家具屋のおいちゃんは俺に頼んだのか。
ってー事は世間話が好きな、お年寄りが店をやってる感じなのかな?
とは言え、こっちに来るまでは姉ちゃんの愚痴をしょっちゅう聞いてたしな。
長話ならまぁ問題は無いな。
「すみませ~ん」
挨拶をしながら恐る恐る扉を開け、店に入る。
中はどこかの高級な装飾店風で、壁に沿ってショーケースがずらりと並ぶ。
そして中心にテーブルがいくつかあり、その奥にカウンターが見えた。
「いらっしゃいませー。あら、エリス!?」
店の奥より黒髪ロングに黒ローブの20代半ばくらいの女性が現れ、こちらを見るなり声を上げる。
そしてパタパタと駆けては、後ろのエリスの元へ。
あれ、お年寄りじゃなくて綺麗なお姉さんだったわ。
「どうもお久し振りですティアさん」
「やだー元気にしてた?
この人は……もしかしてエリスの勇者様かしら?」
「どうも初めまして、エリスの勇者の新藤晴一(しんどうはるひと)って言います」
「ご挨拶が遅れてごめんなさい。
私はヴェルカティア・ユウキ・フローレンと申します。
気軽にティアと呼んで下さい」
彼女は名乗りと共に深々と頭を下げ、自分も釣られて頭を下げる。
「そうね立ち話もなんだし、2人ともお茶でもいかが?」
「あ、えーっと……」
誘いに対しどうするかと迷う。
流石に白ハルコン売って下さいつって、買うだけ買って帰るのも感じ悪いよな。
「エリス、どうする?」
「ハルヒトさんが問題無いのでしたら、自分は大丈夫です」
「んじゃお邪魔してこっか」
そして俺たちは彼女のお言葉に甘え、少々寄って行く事にした。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「でねー、クトアったらさー赤ちゃんが出来ちゃったとか言い出してね?
男なのにもう何言い出してんのってなってさぁ。ほんと笑っちゃうわよねぇ」
そしてあれから6時間が経った。
この店に来たのは11時くらいだったのに、時計は17時過ぎを回ってる。
いくらか覚悟してはいたが、久し振りに付き合う女性の長話は疲れる。
予想してたよりハードだったわ……つーか腹減った。
とは言え、今の話の矛先はエリスなので、俺は隣で聞いているだけだ。
いくらか気の毒になって話に混じろうとは思ったが、わからない内容が多くて無理だった。
考えたら俺はこの世界に来て、半年も経ってない。
数年の付き合いがある2人の会話に混じろうにも、限界があった。
「それが先程話した、西の魔王の話ですよ。
西の港の特産のサーワビを食べて自分が妊娠しちゃったって言う」
「ああ! それのせいだったのね、だからかぁ~!
いやね、あの時はほんと何言ってるのかってみんなで言ってさぁ、もうびっくりよね」
盛り上がる2人を余所に、俺は店内をぼうっと見渡す。
さっきから店内のショーケースを遠目に眺めてはいるが、一通り見ちゃったし。
気になる商品があったケド、そんな事を言い出せる雰囲気でも無いしなー。
かと言って俺に矛先を向ける為の話題も無くなったし、どうしたもんか。
「ん……?」
そんな中、店の窓に映る影が気にかかった。
何かなとじっと見つめていると……家具屋のおいさんが店の中を覗き込んでいた。
思わず目が合うと、おいさんはすまんねと言わんばかりに手を合わせ、そそくさと姿を隠す。
「ぬが、あのおいさん!」
思わず立ち上がり、声を上げるがおいさんの影は消えていた。
くそ、足早すぎだろ……。
「あら、勇者様急に立ち上がってどうしました?」
「あ、いえ……」
立ち上がった俺を見て、ティアさんは小さく首を傾げる。
そして、急に動いたせいか空っぽの腹がぐうっと凹む。
「―――きゅるる」
ああ、おもっくそ腹が鳴ってしまった恥ずかしい。
するとその音でティアさんは時計を見やり、しまったと言った顔をする。
「あら、もうこんな時間だったのね!
そうよね、お腹空いちゃったわよね……オリハルコン探しに来た所をごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそ長くお邪魔しちゃってすみません」
「やーね気にしないで。
そうね、ホワイトディープオリハルコンよね。
昨日新しく入荷したばっかりだから良いのがあるわ、こっちよ」
彼女は笑いながらそう返す。
そして席を立っては店の奥へ手招き、俺とエリスはその後に続いた。
「私が選んでも良いんだけど、特注に必要なら自分の目で選んだ方が良いわね。
品質は全部私のお墨付きだから、心配しないでー。
じゃあ気に入った鉱石見付かったら、声をかけて下さいな」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう言って彼女は俺らを残し、その場を去る。
案内された保管庫はしんとしており、いくつもの棚が並ぶ。
その棚に沿って大きな木箱がいくつもあり、覗き込むと銀色に輝く大きな塊が目に留まる。
……これがホワイトディープオリハルコンか。
鉱石が見せる色は銀とも違う色で、光が薄っすら水色を含む。
大の大人の足2本分はある、太くて大きな鉱石。
表面はゴツゴツしており、少し顔を動かすだけでキラキラ光る。
それはまるで氷のようで、荒々しくも繊細さを思わせる。
そして放つ光はどこか柔らかく、温かい。
「すげーな……」
俺はその色を前に思わず見入る。
しかしこの中から材料を選ぶ、か。
正直どれも良く見えてしまい、迷ってしまう。
「エリス、どれが良いと思う?」
「そうですねぇ……正直、どれも凄くて迷っちゃいますね。
流石は王室直属の装飾職人のティアさんが、選んだ鉱石と言いますか」
「へー王室直属の職人なのか……って、えぇ!?
ちょ、ソレ聞いてないんだケド!!」
「先程話してる中で説明してたと思うのですが……」
「ごめん聞いてなかった」
途中から上の空で右から左だったわ。
ああそうか、王室直属だからエリスとも面識がある訳ね。
「ちなみにハルヒトさんの守りの腕輪、後は自分のこのアミュレットもティアさんが手掛けているんですよ?」
そう言ってエリスは大きな石が特徴的な、胸元の装飾へ触れて微笑む。
「まじかよ……そんな凄い人に対して、俺かなり失礼してたんじゃ。
途中から生返事ばっかだったし、どうしよう」
「ティアさんはお喋りを誰かに聞いて欲しい人なので、気になさらなくて大丈夫ですよ。
そこに誰かが居てくれれば、それだけで凄く喜ぶ方なんですよね」
「……なるほど、要するにあれか。
田舎のお年寄りみたいな感じか」
「た、確かに近いものはありますね。
でもそれ、本人の前で絶対言っちゃダメですよ……?」
手をポンっと叩いてそんな事を言えば、苦笑で返される。
まぁ女性に対して年齢に関わる内容はタブーだしな、口が裂けても言えない。
「流石にそれはしないよ―――アレ?」
どれにするかと目移りする中、オリハルコンが見せる色とは違う光が差し込んでくる。
何と言うか、宝石っぽい光と言うか……キラキラした光が目を刺す。
俺はそれが気になり、その光を放つオリハルコン鉱石を覗き込んだ。
「……何だコレ、水晶?」
「水晶、ですね」
しゃがみ込んで鉱石を見てみると、握り拳ほどの水晶が鉱石にくっ付いていた。
「うーん……何だろう、ただの水晶じゃないよな、コレ」
「中に何か入ってますね……金、でしょうか?」
水晶の中にブロンドヘアーみたいな何かが入ってて、放射状に伸びている。
その金色の束はまるで記号のアスタリスクみたいな形で、人工物かと思ってしまうほどだ。
「……よし、このオリハルコンにしよう」
どれにしようか決めかねていた俺は、水晶付きのオリハルコンを選ぶ事にする。
するとエリスも賛同して微笑み、ティアさんを呼びに行く事に。
「ティアさーん、オリハルコン良いの見つかりました」
「あら、丁度良かったわ。
こっちも呼びに行こうと思ってたのよー」
保管庫を出て、彼女へ声をかけるとエプロン姿で出迎えられる。
そしておいしそうな香りがふわりと鼻をくすぐる。
「時間も時間だから、パパーッと料理用意したの。
良かったら食べてかない?
ちょっと作り過ぎちゃってさー、私一人じゃ食べ切れそうになくって」
と、満面の笑みを浮かべながら彼女はテーブルへ手をやる。
そこに多くの料理が並べられており、軽くパーティー状態だ。
どこがちょっとなんだコレ……。
ほんとこれ、孫に帰ってほしくないおばあちゃんの常套手段じゃん。
しかし用意してくれたなら、断るのもなぁ。
でもそろそろ18時を回るし、流石に城に戻らないと―――
「あとねあとね、勇者様なら多分喜んで貰えると思って、最近やっと覚えたハンバーグって言うのを作ってみたの。
あとはオコメとか言うのも炊いてみたの!」
そして迷う俺へ、聞き捨てならないワードが投げかけられる。
「え……ハンバーグ……? 米……?」
俺は思わず、ふらりとテーブルへ足を運ぶ。
すると覚えのあるハンバーグの香りと……炊き立ての米の香りが鼻をくすぐる。
「え、いやいや………え?」
この世界に来て、エリスの手料理など確かに美味かった。
しかし世界が違うなら料理も違う。
なのでずっと元の世界の食べ物が食べたかった。
でも食文化が違うなら、材料も違う。
その為、米なんて無くてずっと諦めていたのだが―――
「いやいや嘘だろ、米ってオイ。ライスってオイ。
まじ、かよ……」
夢遊病者のようにテーブルの前へ来た俺は、もう会えないと思っていた穀物を前に叫ぶ。
そして気付けば目頭が熱を帯びるではないか。
ずっと前は当たり前だったが、口にする事が出来なくなってからありがたみを覚えた一番の食材・米。
俺は感動の再会を前に、打ち震える。
「ええ喜んで頂いていきます! ありがとうございます!」
気付けば自分でも驚くほどの声で、お礼を言っていた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
そして翌日。
「なんかごめんなさいね、久々にエリスが来て嬉しくてつい」
「いえいえ。
こっちも色々とご馳走なった上に、オリハルコン安くして貰って何かすいません」
あれから結局、ティアさんのお店兼お宅に泊まった。
あそこまでして貰うと、泊まってかないかと言う言葉に2つ返事で答えた。むしろ断る方が失礼だと思い、泊まらせてもらった。
お陰で鉱石を安く買えたし、エリスも嬉しそうだったので良かった。
「ああそうだ、コレコレ。
折角だからアクセにしてみたからさー、良かったら使ってみて」
彼女はそう言いながら包みを渡してくる。
何かと開けてみれば……オリハルコンにくっ付いていた水晶が加工され、ペンダントになっていた。
「流石にそれは椅子の材料には使えないからさー、装備しやすいようにペンダントにしてみたの。
本当はペアで作ってあげたかったんだけど、クラックとかあって1人分しか出来なくて、ごめんね」
「うぉお……すげぇ。良いんですか、コレ?」
「どうぞどうぞ。
お近付きの印って事でね、お代はいらないわ」
「ありがとうございます……!」
サプライズで渡されたペンダントを前に思わず興奮する。
ヤバイ、かっこいいんだがコレ?
水晶の中のアスタリスクを中心に、綺麗な三角形にカットされた水晶。
手の中で角度を変えれば水晶の煌めきとはズレて、中の金色が輝く。
それは水晶の中に金属が入ったような煌めきを見せ、光り物が好きな男心をくすぐる。
「ちなみにそれはルチルクォーツと言う水晶よ、大事にしてあげて」
そうして俺らは彼女に見送られ、店を後にする。
何だかんだ時間はかかったが、無事材料入手出来た。
そして俺の顔を見て逃げたおいさんに文句言ってやろうと思ってたが、家具屋に着く頃には忘れていた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
それから数日後、無事に国王専用の椅子が出来上がった。
―――が。
「どうしてこうなった……」
俺は自室の床に出来た大穴を前に、呆然とする。
穴を覗き込めば、下の部屋で「ふぉおおお凄いスリリングじゃぁ」なんて声を上げる国王。
いや、そう言う目的の椅子じゃねぇから。
隣ではその様子を見守っていたエリスが、予想外の事にオロオロと狼狽えている。
オリハルコン製の椅子は、無事に国王の体重に耐えた。
椅子の上で喜んで跳ねる国王の重さにも耐え、完璧だった。
「……だからって床が抜けるこたぁねぇだろマジ」
椅子は問題無かった。
だが床がその重みに耐え切れず、床がブチ抜けて国王は下の部屋まで落下した。
そして後日、エリエットから「国王様が使用する椅子と床には、魔法を施さないとダメよぉ」なんて言われ、椅子と部屋に魔法を施して貰った。
重いとは思ってたが、魔法が必要なほどの体重とは予想外。
っつーか何百キロあんだよ、マジ。
こうして材質に関係無く、国王が椅子に座っても四散する事は無くなりましたとさ……。
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