勇者って、ほんとバカ
俺は高校二年の一般男子・
魔王討伐の為に召喚され、
そしてその功績を認められエリスと言う彼女(?)を手に入れた。
「そう、そうだよ勇者、キミの事だ。
ああ、そんな難しい顔するもんじゃないよ、ふふっ。
ワテと出会えたキミは実に運が良い、とても運が良い。
さぁそんなキミは今こそ、ワテと契約して魔法使いに―――あだぁ!?」
本日もエリスを女の子にする為の方法を探す為、図書館へ来た。
そして本を片手にテーブルへ戻ろうとするや否や、胡散臭い声と共に小さな影が前を遮った。
プーンだなんて耳障りな羽音を前に、俺は容赦なく合掌叩きで即殲滅をする。
やばいな、この世界は図書館に蚊が出るのかよ……。
「ちょっとキミ、流石に酷くない!?
少しは話を聞くくらいしても良いんじゃないかなぁ!?
まったく、折角出て来たと言うのに……んがっ!」
しかし手のひらサイズの変な小人はすぐに飛び起きる。
それなりに力籠めてたんだケドな?
ああ、こいつ蚊じゃないんだな。
ゴキだわ。
黒いし。
「ちょ、フツー喋ってるとこ攻撃してくるぅ!?
痛い痛い、容赦ない連撃やめてってば。
って剣抜かないで死んじゃうソレ!?」
俺の剣を紙一重で避けるソイツは、ガイドシルフィとサイズはほぼ同じ。
しかし色や外見は全く違う。
赤目に白肌、そして黒の燕尾っぽい服装にひょろ長いシルクハット。
それらをゴチャゴチャと飾る、趣味悪い金と銀の装飾が俺の嫌悪を掻き立てていた。
どっかで見た事あんなーと思えばあれだ。
修学旅行先でよく見かける、厨二ホルダーを彷彿とさせるんだ。
特にシルクハットに付いてるドクロアクセ2つがギラギラ眩しく、苛立ちを掻き立てる。
更にはやたらキンキンした声が神経を逆撫でし、ハエみたいに飛び回る姿も相まってマジ五月蠅い。
「ま、まった、まった! 勇者よ、勇者ちゃん。
キミは性別を変える方法を探してるのだろ?」
その言葉を前に俺は手を止める。
何でコイツがその事を知っているのか。
耳を傾けるのはマズイのではと思うが、最近行き詰まりを覚えているだけに無視出来なかった。
「ワテはその方法を知っているのだ。
契約すれば、協力してあげようじゃないか?」
クルクルと周りながらソイツは悪魔のささやきを口にする。
うん、これは関わっちゃいかんヤツだ。
……と言うかコイツ、馬鹿じゃなかろうか?
今の言葉で、性別を変える方法が存在すると明言しちゃった訳だ。
そうなれば俺はその方法をひたすら探せばいい。
「間に合ってるので結構ですわ」
と、訪問販売を断るようにその提案をご遠慮する。
進展がない中、予想外のトコから情報を得れた。
これ思わぬ収穫だ。
まぁ仮に嘘だったら……うん、そん時はしゃーない。
「ちょっとちょっと!
フツーそこ飛び付くとこじゃないっ!?
キミがここでずっとその方法探してるの知ってるんだよ。
そんな真摯なキミに心打たれ、ワテは姿を現したのさ!
しかし性別を変える方法を知る者など、この世にほとんどいないと言っても良いだろう。
だが! ワテはその術を知らん訳でも無い。
さぁ、こんなチャンス、2度も無いかもしれないぞ」
「結構です」
「い、いやそう言わずにだな、話くらい聞かない?」
「間に合ってます」
「今なら色々特典付けるからさぁ!」
「今、親居ないんで」
「あ、そうですかじゃあ日を改めて……じゃないよ!
ああもうっ! 待ちたまえって勇者よ!」
スルーする俺を止めようと顔の前に来たかと思えば、命尽きた羽虫のようにヒュルヒュルと落下する。
「く、くぅ……無理して出てきちゃったから、お腹が限界……。
お願いだから、契約して……。
じゃないと魔力が尽きて……むり……ほんと。
本に関する事なら何でも教えたげるから、ホラ、アナタの大好きな……肌色の……アレとか。
持って来て……あげ……」
「仕方ないな。
詳しく話を聞こうじゃないか」
これはいけない。
早くこの妖精のようなヤツを助けなければ……。
俺はそんな衝動に駆られると優しく拾い上げた。
そして図書館内にあるジュースやお菓子などをテーブルへ運び、話を聞く事にした。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「いや~話がわかるじゃなぁいか勇者。
ワテは本の妖精・トゥリーシィスル。
本の妖精故、腹が減ってもこの場所から出れなくてな、本当に助かったよ。
ちなみに名前は好きに呼んでくれ。
どうぞこれからヨロシク頼むよ。ふふっ」
で、気が付いたら俺は謎の妖精と契約しちゃいました。
マジ何やってんの、俺。
「約束は守れよ?」
「そりゃあ勿論。
キミが求めている書物に関しては、ワテも厳選して用意させてもらうよ。
楽しみにして居たまえ」
その返答に俺は現実へ意識を戻す。
まぁ契約と言っても内容は変な物じゃなかったし、大丈夫だろう。
コイツは今名乗った通り、トゥリーシィスルと言う本を渡り歩く妖精だ。
歳は500から先は数えていないらしく、かなりの年齢。
で、時折魔力を得に本を手にする者と自身の知識を代償に契約するとか。
そう考えれば俺に契約を持ちかけて来たのも、わからなくもないが……。
どうしてカーラとかじゃなく、俺を選んだのだろうか?
まぁ良いか。
んで、契約内容だがコイツと結んだモノは以下の3つ。
・1、俺(新藤晴一)はトゥリへ魔力の20分の1を1週間に一度渡す。
・2、代償としてトゥリは俺へ対し、性別を変える方法に関する協力と情報の提供をする。
・3、互いに害を与えるような事を、または不易となる事を一切しない。
これの他に、至高の書物を持って来てくれると言う契約もしてくれた。
そう考えると俺的には悪くない契約だったとも言える。
……しかし如何せん見た目と喋りが胡散臭く、信用し辛いのも素直な感想だ。
神話やお伽噺だとうまい契約ほど裏がある。
更にはデカいしっぺ返しでバッドエンドのパターン多いし。
何か変な事があったら、エリスかエリエットに相談しよ。
「そう言えば勇者よ。
契約して気付いたのだが随分な魔力量だね。
レベルいくつだい?」
「えーっと……653だな」
「ほうほう653かぁ―――たっか!?
600超えなんて平均の倍以上じゃないか」
「魔王討伐に向けてドラレベしてたら上がっちゃったっつーか」
久々に自分のレベルに驚愕され、少々反応に困る。
いやーだって東の森に居るドラゴン、マジ経験値(MP)良いんだもん。
流石は守護神と一部で崇められてるだけあると言うか。
ゲームやってた身からしたら、ドラゴン狩りとか目標じゃん?
ウマい狩場があれば籠るのは当然じゃん?
しかも東の森のドラゴンは時折、村の家畜を根こそぎ喰っちゃう害獣ならぬ害竜。
駆除したら村で喜ばれるし、WinWinだったし、つい狩っちゃうよね。
なるべくしてなったんだよ、うん。
「でも勇者ならそんなレベルも当たり前なのか。
ちなみに、どんな加護を持ってるんだい?
そこまでのレベルに至れるのだから、相当強力な力なのだろうが」
と、積まれた本の上へ腰掛け、ニマっと笑いトゥリは訪ねてくる。
……カゴって何ぞ?
結構前にエリスが言ってた覚えもあるが、何だっけ。
「いっつもサモシャで騙し討ちアマハバぶっぱで秒殺だよ。
てかカゴがよくわからんのだが」
「イヤやだ。
冗談はやめたまえよ?
加護は異世界人がこの世界に来たと同時に、女神から与えられる寵愛。
流石に魔王を倒す力は無いが、とても強力な力で人によって能力が違う。
どれどれ、折角契約もした事だし、ワテが調べてあげようじゃないか」
トゥリは得意顔で指を振り、何か唱える。
すると赤青緑の小さな玉が3つ浮かび、衛星のようにクルクルと回る。
しかし女神の寵愛、加護か。
ちょっとしたファンタジーな話題に少々心が躍る。
出来ればもっと早く知っておきたかった気もするが、贅沢は言わないでおこう。
そしてドキドキと緊張が騒ぐ中、トゥリはゆっくり目を開き―――
「キミ、加護無しなんだが?」
人を期待させるだけさせて、おもっくそ落しやがった。
「おい俺の淡い期待返せし」
「そ、そう怒るな、まさか加護無しなんて思わないじゃないか。
……しかし逆に凄いと思うぞ?
加護も無しにそんな高レベルになるなんて、ナカナカ出来る事じゃあないし」
「貰った勇者装備が強いからな。
ただ現状のままじゃ、なぁんかな……」
別に良いさと思う中、装備が無かったら何も出来ないんだよなと言った考えも浮かぶ。
前にエリスがスライムに取り込まれた時もそうだ。
あの時、スラリンの魔法があったからどうにか出来た。
でもアイツが居なければ確実に詰んでたんだ。
確かに
しかし通用しなかった場合、即詰みなのだ……。
かと言って、エリスやスラリン、エリエットが使うような魔法は俺には扱えない。
この世界の魔法は勉強や訓練を何年も行い、やっと習得が出来る代物。
勇者装備のスキルのようにお手軽に扱える物でも無いのだ。
その為、アマハバの新スキルを解放しようとも考えているが、未だに迷ってもいた。
勇者装備のスキルは強力だが、同時発動が出来ない。
なのでスキルを使ってる最中に、別のスキルを使うと言った事が出来ない。
1個1個が強力だし、それくらいの制限は仕方ないとは思う。
しかし臨機応変さが物を言う戦いで、それは大きなデメリットになる。
その為、スキルを新しく取るか二の足を踏んでいた。
「……なるほど。
キミ、今の自分に行き詰まりを感じてるのか」
「!?
い、いやまぁ……アマハバしか使えねーのは流石になぁみたいな。
かと言って今更、他の剣は支援ありきの仕様で違うしさ」
「ふむふむ。
いいねいいね。自分の強さに自惚れず、向上意識があるのはステキ。
悪くないな」
俺の返答を前にニヤっと口の端を上げ、トゥリが指を向けてくる。
「よかろう、キミに魔法を教えようじゃないか。
ま、その代わりに契約で貰う魔力量を倍にして貰うが……どうだい?」
「……いやいや。
魔法って子供の内から習っても、習得に軽く5年かかるって聞いたぞ。
本で調べてもサッパリだったし。
お前うまい事言って、俺から更に魔力奪おうって魂胆だな?」
俺が何も知らないと思って本性を現わしやがった!
あぶねぇ、思わず騙されるトコだったわマジ。
「おっと、少し言い方が悪かったかな。
ワテが教えようとしているモノは、魔法は魔法でも現代のモノじゃあないよ。
現代の魔法は便利だが、頭が悪そうなキミには不向きだろうし」
「悪かったな通知表評価は平均以下がデフォだったよチクショーめ」
自分の馬鹿さに胸を張り、ハンっと鼻息を飛ばしてやる。
その風をそよ風と言った様子でトゥリは銀髪を弄り、小さく指を振る。
「まぁまぁ待ちたまえ。
幸いな事にキミは高レベルで、飛び切りに魔力が多い。
ならキミにピッタリの、とっておきを教えてあげようじゃないか?」
「……とっておき?」
燕尾の妖精は勿体ぶりながら、一拍置く。
そしてピョンっと跳ねると俺の顔の前へ身を寄せ、
「そうさ。
現代の魔法の根源となった呪いよりも古い力、呪いの元となったとてもとても古い力。
始まりの魔法とも言える、
それをキミに教えようじゃあないか?」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「……で、これのどこがロストマジックなんだ?」
「まぁまぁ、最初はそんなもんさ」
トゥリに
しかし俺は両手をグッパグッパしてるだけ。
手を握り込んで、開いて。
また握って、開いて。
また握って以下略。
……何ぞコレ。
「魔法以前にニギニギしてるだけな気がするんだが?
これに何の意味があるんだよ」
「だーかーらー、さっきも言っただろう?
それは魔法の7属性の内の基本属性の3つを会得する前の前の前の、一番最初。
この世には風、熱、水の3つを基礎とし、そこから発展した雷、振動と2つの属性が存在する。
更にそれらを基礎としながら、別のカテゴリに入る光と陰の2つがある。
そしてその動きはそれらを会得する為の、一番の基礎さ」
「さっきも聞いたよ。
じゃなくてだな、俺はこう……もっと魔力を使った練習みたいのをだな」
「別にそっちでも良いがキミは暗記とか計算苦手であろう?
そうなると体で覚える方が早いのだ。
ホラ、そうごねている内に風以外の属性が手の中に加わってるぞ」
「……他の属性って何も無いだろ。
1時間近くこんなしてるせいで手が熱くなって、汗ばんでるだけだ」
「それが熱と水だ。
そして手がジンジンしてきたであろう?
手の中がドクドクと鳴ってるだろう?
それが振動と雷、2つの属性さ。
ほうら早くも5属性の火種はキミの手の中だぞ」
「い、いや普通に当たり前の事じゃねぇか」
気怠くなりながらもとりまグッパを繰り返す。
なんかエアハンドグリップしてるみたいだな。
てか腕まで疲れてきたんすが……。
「まぁ今日はこれくらいにしておこうか。
とりあえず1週間、毎日5分はそれをやりたまえ」
「最低5分でも良いのかよ。
今、1時間もやった意味……」
「それはキミの適正見たかったからねぇ。
そうだな、こうしよう。
キミがそれをきちんとこなしたなら、キミの探している本を用意しようじゃあないか。
目標があった方がキミもやる気が出るだろう?」
そしてトゥリによる魔法指導初日は終わった。
ご褒美か。
……しゃーない。
ちょっと頑張りますかね。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
それから俺は時間を見てはニギニギ。
暇があればニギニギ。
朝から晩までご飯の後や、寝る前にニギニギ。
飽きずに毎日毎日、ニッギニギ。
「……何をされてるんですか?」
「え!? い、いや、なまらないようにストレッチっつーか、うん!」
椅子にもたれながらニギニギしてるとエリスに顔を覗き込まれ、首を傾げられた。
咄嗟の事に思わず誤魔化してしまい、思い切り乾いた声を上げてしまう。
危ない危ない。
全然結果出てないんだ。
流石にまだ言うのは恥ずかしい。
トゥリの事もいくらか怪しくはあるが現状目立った怪しさも無い。
なので出来ればエリスにはまだ内緒にしときたい。
そして願わくば『魔法も使えるなんて凄いですハルヒトさん!』なんて驚かせたい。
それまでは内緒にしてたいのだ。
―――と、妄想に更けていれば右手が温かさに包まれ、意識は現実へ引き戻される。
「握り込む時は綿を握り込むよう、優しくが良いんですよ?
指はこう、関節をきちんと曲げる感じ。
そして指先は手のひらの中心に集める感じです」
「……へ?」
「魔法の為の基礎を会得しようとしてるんですよね?
自分も小さい頃にずっと練習してましたから、気付いちゃいました」
「え、あ、うんそうそう!
いやーバレちゃったかーこっそり覚えて驚かせようと思ったんだけどなぁ!」
「そうだったんですか……ご、ごめんなさい、つい」
あっさりバレしまい、思わず慌ててしまう。
おかしい。
トゥリの話じゃこれはもう使われる事が無くなった、
「でも
「う、うんありが―――
ごめん、今なんて?」
「えっと、やり過ぎは良くないですよ?」
「もうちょい前」
聞き捨てならない単語を前に、俺は手を握り返せば少々動揺したエリスが目をまんまるさせる。
「え、えと……
と、エリスははにかみながら手をまた柔らかく手を握ってきた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「おるぁあああああトゥウウウウリィイイイ出てこいやこの詐欺妖精がぁああああああ!!」
「おや、まだ5日目だよどうしたん―――ほんげっ!?」
「おま、
エリスに聞いたら現代魔法会得の為の基礎の基礎、
俺は図書館に飛び込むや否や、フヨフヨと間抜けに浮遊しているトゥリを鷲掴みにする。
あのあと、エリスにゃ『懐かしくなっちゃって、邪魔しないように見守ってました』
なんて言われまして……。
ずっと微笑ましく眺められていた事実を前に、俺はもう恥ずかしくて恥ずかしくて。
「ちょ、勇者、勇者ちゃん……落ち着い」
「落ち着いてられっか俺の5日間返せぇえええええ!!」
もうやだ。
どうしてくれんだよ、『良かったら付き合いますよ?』
なんて手を握られて見つめ合って、やけに良い雰囲気なっちゃうしさ?
でもキッカケがダサすぎてさ!
思わず逃げてきちゃったよ!
「何があったか知らないけど、落ち着きなさ」
「うっせぇえええこんまま外に放り投げてくれるわぁあああああ」
「―――はぁ、まったくやかましい。
トゥリの溜息が聞こえたのも束の間、泥を握り締めたみたいな不快感を覚える。
すると背負い投げを喰らったみたいに景色は線になり、ぬるりと伸びる。
そして我に返れば、いつの間にか仰向けで床の上に転がっていた。
あれ、立ってたハズなのに何で仰向けなってんの俺……?
「……
……ゼファ、フラマ、マイム、ゼファ、フラマ、マイム、ゼファ、フラマ、マイム―――」
聞こえる小声に思わず顔を上げる。
何事かと思えばトゥリは手をニギニギ動かし、その手が淡く光っている。
そして動きに合わせ風が起き、赤く燃えたかと思えば細かな雫と変わり、また風が舞う。
その風に煽られ、テーブルの上の本はパタパタとめくれ、その光景に俺は呆然とする。
「さぁ、キミもやってごらん?」
「や、やるって何を……」
「毎日やっていたように指を動かし、魔力を送るのさ。
スキルを使う時のように手に魔力が集まるイメージするんだ」
「そう簡単に言ってもだな……
うを!? な、何だコレ!」
半信半疑の中で言われた通りに数回指を動かしながら、魔力を籠めれば……
突然、手の中で風が巻き起こる。
それは明らかに指を動かした程度で発生する物では無く、小さなそよ風が手のひらで暴れる。
「ほうら出来たじゃないか?
しかしその早さ、随分練習していたようだね」
俺を見つめながらトゥリは満足そうに笑い、指を振る。
「これは魔法全ての基礎で、簡単に言うなら火を付けるのにマッチを擦るのと同じ。
とまぁ説明はさて置き、おめでとう勇者よ。
見習いとは言え、これでキミは魔法使いになったと言う訳だ」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
……そしてそれから。
「ではではお待ちかね、課題をクリアしたキミにはご褒美の時間だ」
その言葉に俺はゴクリと喉を鳴らす。
ゆっくり視線を向けるとテーブルの上に置かれた一冊の分厚い本……。
それを前に俺の心臓はドクリドクリとゆっくり、しかし力強く音を響かせる。
「にしてもこんな早く見つけてくるとは思わなかったわ」
「そりゃあワテも本の妖精を名乗っているからねぇ。
これくらいは朝飯前さ」
ニタリとトゥリは微笑み、当然と言い切って見せる。
流石は本の妖精。
それに比べ、この図書館の検索ツールのガバさ加減よ……。
トゥリを見習ってほしい物である。
「しかし良いのかい?
キミは聖女と言う彼女が居るんだろう?」
「ぶっ!?
お、おま何でそれを」
「加護を読み取ろうとした時に少々ね。
とは言え、細かい事までは流石にわからないが」
色々バレてるのではと焦るのも束の間、細かい事はわからないとの言葉に胸を撫で下ろす。
しかしエリスが居るのに良いのかと問われ、返答に困る。
罪悪感が無いかと言われればあるしな。
ですがね、毎日毎日……こう生殺しにも近い状況で色々限界もあるんす。
かと言ってエリスさんでハァハァしすぎるのも色々まずい。
性癖があらぬ方向へシフトチェンジして、今のままでいいんじゃね男のままでええんじゃねってなっちゃい兼ねない。
……っつーか若干そうなりかけてる自分が居ます、ハイ。
女の子にする約束がログアウトするようなのは色々マズイ。
更には時々エロでからかって来るエロエットもいるしさ。
結構、八方塞だったりする俺です。
「っと、ワテが口を挟む話でも無かったな」
そう答えるとトゥリは俺へ本を向けた。
皮張りに細かな金装飾が施された本に俺は恐る恐る手を伸ばす。
表紙に指をかけると、ただの本のハズなのにずしりと重い。
俺は指に力を籠めると、戸を開けるように表紙をめくる……。
「……ナカナカでしょう?」
フフリと自慢げにトゥリが囁く。
豪勢な紙の扉を開いた先には、肌色一面の世界。
次の頁をめくると同じく、また肌色の世界。
そこに描かれた者達は一糸纏わぬ、生まれたままの姿で、あられもない姿を曝け出している。
自身の持つ首筋、鎖骨を始め、自慢の胸を大きく張って腰を突き出す。
その強調された腰元を追えば、恥じらいを取り払った下半身がこれでもかと主張してくる。
「ほら、この辺りなんて特に……グッと来ない?」
そう言って指差される先へ目を向ければ、もっと過激なポージングのイラストが目に飛び込む。
それは一言で表すなら、猛りであろうか。
自分の持つ、肉体美を最大限に魅せ付けるそのポーズを前に俺は自分が恥ずかしくなる。
そして同時に、憧れが胸に宿る。
無駄なく引き締まった四肢。
己の体を武器とし、傷を作りながらもそれこそが誇りと互いに組み合う、肌色と肌色。
頭からつま先まで流れるような肉付きでありながら、雄々しさを秘めた体は胸を熱くする。
それは記憶の中にある、名立たる芸術品を彷彿とさせ―――
「って全部男じゃねぇかぁああああああ!?」
そして熱い感情を籠め、思わずテーブルへ本を叩き付けた。
「ちょ、何勿体無い事をしてるのん!?」
「アホか! おま、アホか!?
何が悲しくてダビデ筋肉見なきゃならんの!!
ってか男のマッスルレスリングとか興味無いからね!?」
「だってキミ、付き合ってるのは男じゃないか。
だから男好きで肌色一色のエッチな本を読みたかったん―――いたたたたたたい!?
ちょ、ねじらないでねじらないで何か出ちゃうからぁあああああああああああ」
どうして俺の周りはこうも俺をホモにしたがるのか。
エリスだから好きと言う話を小一時間続け、改めて本を用意させたが……
「いやだからさ。今度は何でルーブルなの。
中世ファンタジーだからって、ダビデとかヴィー誕で統一しなくて良いからまじ」
これまた芸術的価値の高そうな、女体ばかりを描かれた本を持ってこられた。
ヴィーナスの誕生みたいな絵でどうやってハァハァしろと。
そして色々文句を言ってみたが、これがこの世界では最高にエロいのだと力説された。
そう、ここは異世界。
この世界に
…………まじこれからどうしよ。
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